第174話 妙義
「今までの技に耐えうる敵に対抗するための技、なんとそれが二つもあるのです!
そのうちの一つが、クレバスプレス、日本語で言うのは少し難しいですが、氷峡の捕食、とでもいうべきでしょうか。地面がパックリと割れ、地上の者を落とした後に閉じる。これは確実に相手を葬る技になりますね」
やはり二つ名の付け方が非常に上手だな。確かにクレバスプレスを日本語に訳すのは難しい。なんせ日本にはクレバスという概念がそもそもないからな。
それを表現するために、氷の峡間、つまり氷の谷だな、これが人間を食べていると表現したのか。
素晴らしいな、なぜそんなことを思いつくのだ、という疑問もあるが、二つ名としては綺麗に纏まっている。
私は彼女に婉曲的にネーミングセンスがないと言われてしまったので、彼女に弟子入りしてネーミングセンスを学ぶ、というのもいいかもしれない。
いや、流石にそんなことをしたら先輩の威厳が保てなくなるし、上下関係がややこしくなるだけだ。ここはコソッとセンスを磨いて、いつの日か払拭できるタイミングを見計っていきたいな。
「先輩、聞いてます? 次がラストですよ?」
「お、おう勿論聞いているに決まっているだろう。もう、最後がどうくるのか楽しみで仕方がないよ」
「そうですかそうですか! それならば私も嬉しいです。では最後の技を発表いたしますね。これは、今までの対多数用とは打って変わって、敵一人に対して発動する技です。その名もブラッディローズ、血塗られた薔薇ですね」
なにっ、今まで全て氷に関する技だったのに、ここに来て最後の最後で植物の名を出してきたか。
そして、二つ名もシンプルでカッコいい。薔薇の赤色を血塗られたと表現するだけで、こんにも悍ましく人の死を連想させるものもそうないだろう、流石だ。
「この技は全てのリソースをたった個人だけに向けることで圧倒的な殺傷能力を手に入れたのです。相手の体内の血液を全て凍らせて、体中から噴出させることで、相手を死に至らしめ、その血で薔薇を形作るのです」
そして、技の内容も非常にかっこいい。こんなにも男心を擽ぐるものを、こんなにも可愛いくて女性受けしそうなワンちゃんが持っているのがまた面白い。
「以上の五つが今のところ確認されている、個体名アイスの使用技になります。先輩が特に気に入っている技はありますか?」
「そうだなー。個人的に、だが、私はクレバスプレスがやはり良いな。大地の自然の壮大さを感じさせつつ、技自体も強力で、何より二つ名が気に入った」
「なるほどー。え、二つ名? どういうことですか?」
「ん、あぁ、気にしなくて大丈夫だ。こちらの話だよ」
彼女は二つ名など考えもせずにただ分かりやすくする為に言っていたのだろう。無意識にあれだけの完成度のものを即興で披露するとは、やはりレベルが違うようだな。
私も精進せねばならんな。
「ってか、なんで私は彼の従魔の解説をしていたのでしょうか? ただ分かりやすくまとめようとしただけなのに……
まあ、可愛いからよしとしますか!」
やはり、アイスは女性に効果覿面のようだな。もう一人の女性が氷峡に深く堕ちていったようだ。
いや、食べられた。というべきだろうか。
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