第171話 アイスとの出会いの裏で


「え! こ、こんなのありですか!!??」


 彼女が珍しく困惑していた。それもそうだろう、まさかの出来事を目の当たりにしてしまったのだからな。


 牢屋から囚われた人々を助けるために、穴を掘ったが、それは横に、そして上に伸びるものだった。まさかそれを歩かせるのは酷ではないか、そう思った時だった。


 なんと、彼が巨大化してしまったのだ。


 そうすることで、一番の難所であったはずの垂直方向への移動が一瞬に、そしてなんの労力も無しに成功してしまった。


 しかも、中には子供達もいたため、怖がっていたこもいるようだが、大半は面白おかしく、その稀有な体験を楽しんでいるようだった。


「ま、まさか巨大化するなんて、ね……」


 彼女はまだ余韻が残っているようだった。確かにこれは我々では決して思い付かないであろう、解決策だからな。我々がいかに固定概念に囚われているかがよくわかったことだろう。


「あ! 彼、なんか称号とってますよ!? きゅ、救済者? 効果は回復量アップの、救済之光というスキルの獲得ですよ! これ、結構強くないですか?」


 うーむ、確かにこれはかなり強力だな。状態異常を完全に回復してしまう、というのは意外にも結構強い効果なのだ。まだみぬ状態異常にも対応できるということだし、その対応幅が広いのも良いところだ。


 普通ならそれ専用のアイテムやスキルが必要になってくるからな。


 つまり彼は、自由な発想を使って人々を助けるというのはそれだけで値千金の価値になりうる、そんなことを証明したということだ。


 我々にも見習わなければならない姿がそこにはあるような気がした。


「あ、彼今度は捕まえられている動物達を助けてあげるみたいですよ? 彼ってこんなにも優しい心を持ち合わせていたんですね。今までの行動からは全く予想もつきませんでしたが」


 そんな失礼な! とツッコミたかったのだが、正直私としても同じ感想だ。ずっと死に戻ってばっかりだったし、何事も効率重視、みたいな考え方をしているのだとばかり思っていた。


 それなのに、こんなにも優しいとはな。人は見た目によらぬものとはよくいうが、実感するのは久しぶりな気がする。


「あ、運び出して行きますね。あんなに大っきいライオン、怖くないんですかね?」


 いや、まあ、ライオンを怖がるような人が、自分から自殺できるとは思いにくいだろう。彼に優しさという感情があるのは今回確認されたが、恐怖とかそこら辺の感情は流石に欠如していると思う。


 ってかしておくべきだろう。こんな状態で彼がお化けなんかに怖がっていたら、目も当てられない。


「お、どんどん運び出していきますよ! って、もう最後のワンちゃんじゃないですか! って、え? 服従させた!?」


「え?」


「なんか、犬の方が、彼に離れたくないような甘えた素振りを見せたら彼が服従してしまいましたね。えー、良いなあー、私も犬飼いたいーーー!」


 あ、え、そっち? 飼いたい方なのね?


 それよりもこれで全ての囚われた命の救出が終わったから、今から塔の攻略が再開されるんですけど……

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