第169話 後輩の溜息


「あ! か、彼が階段に到着したみたいだ。これを上に行けばボスに近づけるからね。もう、今すぐにでもこの階層をクリアしちゃうんじゃないか?」


 ジーー、後輩からそんな視線を浴びせかけられた後、彼女は口を開いた。


「今、露骨に話題をそらしましたね。先輩がなぜそこまで頑なに気持ち悪い顔になっていたのかを教えないのかは気になりますが、先輩がそこまでするとなれば、よほど気持ちの悪いことをしていたという自覚があるのでしょう」


 い、いや別にそういうわけではないぞ? ただ単に恥ずかしいだけなんだよな、うん。


「まあ、いいでしょう。そこまで分かればもう逆に中身については興味がなくなりました。ですから、彼の動向を、、え?」


「ど、どうしたんだい?」


 彼女が彼の動向を、と言って確認しようと画面を見るとフリーズしてしまった。一体何があったのだろうか、とても気になる。


 ただ、まあ個人的には話題を逸らせることができて本当に満足している。


「はい、えーっと彼がどうやら下の階に向かったようなんです……」


「な、なにっ!? 下の階だと? って、なんでそれが不味いんだ?」


「はぁ、全くこれだから先輩は……」


 え、なんか呆れられたんだが。それほどまでにこの盗賊団のアジトの下の階にあるものを知っておくことは当たり前なのだろうか?


「下の階には、盗賊団を盗賊団たらしめるものが収容されているんです。そしてそれを彼がみた時にどう思うでしょうか?」


 盗賊団を盗賊団たらしめるもの? それは奪った戦果だろう。つまり金銀財宝とかそれに準ずるものであることが窺える。そして、それを彼がみた時にどうするか……


「全てを奪って自分のものにしてしまう?」


「は? 先輩は何を考えていたんですか? って、下の階に何があると思ってるんですか! 下には捕まえられて奴隷にさせられる人間であったり、珍しくて貴重なモンスター達が捉えられているんです!」


「な、なるほど……金貨とかお宝ではないんだな」


「そういうことですね、先輩が考えてたのは。その可能性もなくはないですが、下の階と言われた時にその可能性はなくなるでしょ。だって、そういうものは金庫に入れるんですから。そして金庫は下の階いっぱいに埋まってるわけないでしょう? それにボスからすれば身近に置いておきたくなると思いますよ?」


「あ、そ、そうだね」


 物凄いスピードで圧倒されてしまった。これが彼女の圧……私もゲーム世界でプレッシャー無効、みたいなスキル獲得できないかなー。


「で、どうなると思いますか?」


「助ける?」


「どうやって?」


「力にものを言わせて適当に」


「はぁー……やっぱりそうなりますよね。まあ、いいでしょう、私にも正確なことは分かりませんから実際に見てみましょう」


 いや、分からないんかい!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る