第160話 考と答


「逮捕……?」


 逮捕、というプログラム名で行われたのは、手錠のようなものをその犯罪者に向かって超高速で射出する、というものだった。


 これならまだ網の方が捕まえやすいのではないか? とも思ったが、かなりの速度だからか、彼も心なしか対応に追われているように見える。


 そして、彼が面白いことを始めた。この「逮捕」に捕まったらどうなるのかが気になったのだろう。なんとドローンの残骸をあえて捕まらせたのだ。


 ちょうど私も気になっていたから助かったのだが、その後の反応は予想以上だった。手錠をはめられたその残骸は、捕まった瞬間に即座にロボットの方に引き寄せられ、ガチガチに捕縛されるのだ。


 でも、今思ったのだが、先程の防犯の一番強い攻撃、プログラムは電磁砲みたいな奴だった。しかし、この手錠というのは、それよりも弱いのではないか?


 だとすると防犯プログラムで十分ってことになって、犯罪者対応はいらなくならないか? でも現にこうやって存在しているわけだろ? つまり、存在する理由はあるってことだ。


 ふむ。あくまで防犯プログラムがその怪しい者を捕まえることだけに終始しているとしたら、整合性は保たれるかもしれない。


 あの強力無比に見えた電磁砲も意外と相手の機動力を奪う程度にしか効かないのかもしれない。それならその次の段階である逮捕、というのにも頷けるし、何もおかしくはない。


 それか、彼女が言っていたように、やられる方がマシで捕まえられる方がより、残虐ということだろうか? 息を止めるのはあくまで最終手段であって、極力捕まえたい、というものなのだろうか。


 もしそうだとすれば、いよいよ捕まえられるのが恐ろしくなってくるな。プレイヤーである以上、一定のラインは存在するだろうが、そのラインがどこにあるのか、という話だ。


 確かにプレイヤー側からすれば殺された方が次に繋がるのか。拘束され、拷問なんかを受けていたら、それこそ大惨事だ。


 彼の場合は拷問でも大歓迎なのだろうが。


「あ、次のプログラムだ」


 次のプログラムは「機能奪取」、毒ガスだ。やはりあくまでも捕獲がメインなのだろうか。もしかして、そういった犯罪者を捉えて、人体実験等をしているのかもしれない。


 一番効く毒薬の作り方とか、クローン、効率の良い殺し方とか、パッと思いつくだけでも色々ある。これについて真剣に考えれば考えるほど、恐ろしい実験が生み出されるのだろう。


「ふわー疲れた」


 ん、どうやら後輩がどこかから帰ってきたようだ。だが、疲れたとは何事だろうか、仕事で疲れるのが普通じゃないのか? それ以外の場所で疲れるとは一体……?


 いや、それよりも私には後輩に聞きたいことがあったのだ。これまでの私の考察が正しいのかどうかだ。さっきからずっと気になっていたのだ。答え合わせができるのならするほかないだろう。


 そう言って、私の考えを彼女に話すと、


「え、そうなんですか? 私は適当に好きな要素を詰め込んだだけですからよくわかんないですよー!」


「……」


 ちなみに彼に毒ガスは一切効いていないようだった。

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