第157話 童心と善悪
「この世界では、あらゆる情報が統制、管理されていますので、もし、ぱっと見は普通の人間でも、その世界にいるはずのない、イレギュラーな人物が突然現れると、そりゃどうなるかは火を見るよりも明らかですね!」
彼がここに転移してからというもの、彼女が急に饒舌になって止まることを知らない。
彼女もこのエリアの開発に大きく関わったのだろう。自分が作ったものを自慢する小学生のようなキラキラした目をしている。
私はいつからこの目を忘れてしまったのだろう、幼くて、眩しくて、でもどこか儚い、そんなことを感じさせる目だ。大人になってもなおこの目ができる人は一体どのくらいいるのだろうか。
ん? いや、別に彼女がガキだとかそういうことを言っているんじゃないぞ? むしろ童心を忘れていないようで、とても羨ましいだけだ。
「先輩、聞いてます? 今大事なところなんですから!」
「もちろん、聞いてるとも」
「それでですね、イレギュラーな存在にはすぐさま警備隊が駆けつけるのです。今の日本でいう警察みたいなもんですね! ま、ロボットなんですけど。で、それが二十四時間監視して、いつでも出動できるわけですから、もう、世の中から犯罪という犯罪が消えちゃうわけですよね!」
「確かに……」
街中の至る所にカメラが設置され、悪の所業を働けばすぐさま警備隊が駆けつける。そして、その警備隊はかなり強力で、逃亡も抵抗も不可。
こうなってくると、誰も悪いことをしようと思わなくなるんだろうな。
だけどもそれは人間が皆、善人になったわけではなくて、ただテクノロジーの力でそうせざるを得ない、というだけなのがまた悲しいところだな。
人間は元来、善であるか悪であるか、その議論は太古から行われてきたものではあるが、未だに結論はつかず、そして未来永劫行われる議論なのであろうな。
でも、こうして、彼や彼女を見ていると、そのどちらでもないような気がしてくるのは、気のせいなのだろうか。
「せんぱーいっ! 今、完全にトリップしてましたよね? 今、警備隊の凄さについて説明してたのにー、なんでこう人の話を聞けないんですかねー、先輩は」
「いや、ごめんごめん、悪かった」
「ごめんで済むなら警察、いや警備隊はいらないんですからね? それで、警備隊は怪しい人を見つけたら、まずは拘束するための網を放射するんです!」
「ホェー」
相槌は非常に大事だ。それだけで話を聞いていると思われるからな。生きていく上でも必須スキルのかなり上位に食い込むんじゃないだろうか。
「そして、それが相手に効かなかった時は、もっと激しくいきます! そのなも強化スタンガン、またの名を電気ショック! これで、確実に敵を無力化しにいくんです!」
「ホウホウ」
もっと激しくって、初手から網をぶっ放しておいて、よく言えるな。日本だと考えられないぞ?
あと、またの名いる? どっちかでいいよね絶対に。
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