第154話 束の間もない平穏


「あ、今度はちゃんと帰らずの塔に戻ってきましたね、彼。えーっと続きは、あの遺跡のところからですね」


「遺跡……か」


 あの遺跡に着くなり、なんの躊躇もなく飛び降りて、飛び降りまくって即死無効を獲得するなんて誰が考えたのだろうか。


 って、その状態で飛び降りたらどうなるんだ!? 即死できないから永遠に落ち続けてしまうのか?


 いや、もう流石の彼も飛び降りないだろうし、考えるのをやめよう。どうせあそこから飛び降りるプレイヤーなんて彼ぐらいのものだろうから。


「あ、彼が普通に攻略を始めましたよ!」


 この遺跡は今、彼が乗っている立方体を操作することで攻略することができる。


 立方体を動かしていけば、どこかで必ずモンスターが乗っている立方体と衝突するようになっており、その敵を倒せば、そのモンスターが乗っていた立方体の操作権がゲットできて、さらに動かしていく、みたいな感じだ。


 この遺跡内ではこれが絶対のルールだから、いかに彼と言えども地道に全ての敵を倒していく他ないだろう。


 そして、そのモンスターを倒している間に限っては特に彼は成長できないだろうし、移動中は尚更だから、これはかなりの時間稼ぎができるのではないだろうか。


 まあ、そんなに大したことではないし、彼もすぐクリアしてしまうとは思うが、なんていうか、安心して見られるというだけで、私の心が穏やかになるのだ。


 彼に成長がないと言うことは、後輩からの慌ただしいコールもないはずだからな。ゆっくりと彼が攻略する様をコーヒーでも飲みながら優雅に鑑賞する。それができるなんていつぶりだろうか。


「あっ! せ、先輩! か、彼が凄い事しちゃってますよ!?」


 なんだなんだ、この遺跡内ですごいことする方が難しだろう? もしかして最短ルートを見つけて、超効率的に進んでいっているとかか?


 確かに、最短コースというものがあるが、それをゼロから見つけるのは厳しいと思うし、結局は最後に戦うハメになるぞ? だから意味n


「か、彼、なんとスキル【天駆】を使って直接ボスのいる立方体まで行ってしまったのです!!」


「……」


 一体なんてことをしてくれているんだ、全く。誰がそんなことを思いつけるだろうか? 目の前に道があるのだからそれ通りにいけば良いのに、なぜ新たに作りたがるんだ彼は?


 この何者にも囚われない柔軟な発想力、恐るべきだな。確かに、以前から彼はそうだったかもしれない。時間の経過によって忘れてしまっていたのだろう。


「だ、だが、ボスクラスのモンスターは四体いる。そしてそのうちのどれか一体だけが次につながったはずだ。だからまだ、多少時間は稼げるのだろう?」


「いえ、彼がどうやったのか、一瞬で次の階層に繋がる鍵のモンスターが象だと判別し、一瞬で倒しに行きましたよ」


「ファッ!?」

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