第147話 仁義なき戦い
「先輩、なんでそんな深刻そうな顔してるんですか? 何か嫌なことでもありました?」
「え?」
的外れにも程があるだろう、そう思ったのだが、意外とそうでもないのか? 確かに嫌なこと、は起きたような気もする。
しかし、私はこのゲームの為を思って真剣に考えていたのだが、彼女はどうやら私ほどはことの重大さに気づいてないらしい。
あるいは、彼女は気づいているのだが、全て私に任せる気なのかもしれない。
「いや、彼をこちら側に引き込む手段を考えていたんだ。何かいい案はないかい?」
ふん、そっちがその気ならこちらだってやりようはあるのだ。無理矢理こちら側に来てもらうことだってできるのだからな、今みたいに。
「いや、それは先輩の領域ですよね? 私には向いてない、というか比較優位なのは先輩ですので先輩がやった方が効率はいいですよね? 私は他にもやることが山積していますので」
「な、」
断られただと……? しかも何故か心なし、彼女の言葉が賢く聞こえてくる。語彙力が上がったとでもいうのか? それとも私に押し付けたいがあまり本気を出してきた、のか?
だが、ここで負けてはいられない。私にだって意地というものがある。
「いや、だからこそだよ。君に意見を聞くことで、私にないアイデアをもらえるかもしれないだろう? 私が担当するからこその質問、ということだ。分かってくれたかな?」
ふっ、これが「だからこそ戦法」だ。だからこそ、というワードを使うことであらゆる場面に対してカウンターを放つことができる。非常に便利な言葉だから皆さんも是非使ってみて欲しい。
「……」
どうやら私の作戦が効いているようだな。これで、今回も勝ちは私が頂けるようだ。
「そうなんですね、先輩。他人の意見が欲しかったんですね! それならいくらでもあげますよ!」
勝った……!
「他の社員がね」
「なっ……!?」
「皆さーーん! 先輩が皆さんに意見を聞きたいことがあるらしいですよー! 今、私はどうしても処理しなければならないことがあって、手を回せないので、皆さん手伝っていただけないでしょうかー!」
これは、他人に矛先を向けて自分は雲隠れするということか! しかも、絶妙に嘘をついていないというのがまた、やりよる。
どうしても処理しないといけない、というのが私のことだと捉えればなんの嘘も無くなってしまう。
くっ、今回は完膚なきまでにやられてしまったようだ。
「社長、どうかされましたか? 意見を聞きたいとはなんのことでしょう? 私で良ければいくらでもお使いください!」
「私で良ければ!」
「力不足ですが、少しでもお役に立てれば!」
続々と社員が集結してきたようだ。これはもう、万事休すだな。
後輩の方を見てみると、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
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