第146話 初勝利


「な、私が先輩に予測で負けるなんて……」


 フハハはは、そう、私は勝ったのだ、彼女に! 


 彼のこの後の行動については、私は鍛冶屋に、彼女はスキルショップに行くという予想を立てたのだが、見事私の予想が的中した、ということだ。


 今まで数多の辛酸を彼女に舐めさせられてきたからな、これで一矢報えたというものだろう。


「ゴホン」


 ……私は一体何をしているのだろうか。後輩相手にムキになり、本気で喜ぶ上司がどこにいるだろうか。いや、仮にいたとしてもそうはなりたくはない。立派な、憧れられる先輩、上司でありたいものだ。


 その為には、私はここでは一切の煽りの類をしてはならない。大人としての余裕をちゃんと見せるのだ。


 まあ、実の所、彼女の方が合理的な考えができていたと思うし、私の予想が当たったのも、彼が奇想天外な行動をしてくれたおかげだ。


 つまり私は何もすごくなく、ただただ運がよかっただけなのである。だから威張れるものは何もないし、そんな気持ちも毛頭ない。


 まあ、結局の所優秀な彼女に運でもいいから勝てたと思えたのが嬉しかっただけだ。今までのは全て御託、言い訳だ。もう、切り替えよう。


「それにしても実際問題、なぜ鍛冶屋に今来ているのだろうか。私もこう言っちゃなんだが、スキルショップの方がありえると思っていたのだが」


「し、知りませんよ!」


 珍しい、彼女が拗ねているように見える。これはしっかり私が彼を観察しておかなければならないな。


 ❇︎


 見ていた、私は一部始終を見ていた。彼が鍛冶屋に入ってからの一連の流れを。


 彼は、自分の装備と、従魔の装備まで作成を依頼して、その店を後にした。まさか従魔の装備まで整えてあげるとは、意外だった。


 しかし、驚きなのは、その装備の素材だ。


 従魔の装備にはキングミノタウロスを、自分の装備には悪魔の素材を提供していた。


 これはかなり恐ろしい事態だ。なんせ、悪魔の装備はシンプルに強いからだ。彼が倒した低級の悪魔ですらかなりの強さになるだろう。


 そして、その装備は頑丈さだけでなく、そこに宿る力もまた特別なものとなる。悪魔の力をその身に纏う彼をどうすればいいのだろうか。いよいよ、手がつけられなくなりそうで心底不安である。


 装備が完成するまでおよそ一ヶ月ほど、それまで彼の行動に注目しつつ、作戦を具体的にちゃんと練っていかなければ、手遅れになる危険性が高い。


 彼はそれほどイレギュラーで、規格外だ。


 もう、後戻りできないところまで来ている。これからの判断は取り消すことのできないもので、これからのこの世界の命運を決めるものだと、心して行って行かなければならないな。


「先輩、なんでそんな深刻そうな顔してるんですか? 何か嫌なことでもありました?」

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