第142話 ご都合
「はい、ここは遺跡ですね。とは言っても現実世界の遺跡とは全く異なりますから、また違った遺跡感ですけどね」
何だよ遺跡感って、意味は分かるが本当にそんな日本語あるのか? 大体、現実と全く同じ遺跡がゲームの中にあったら、それはそれで幻滅すると思うのだが。
って、それより、この遺跡というのは恐らく私も制作に関わった、数少ない内の一つではなかろうか。
「その遺跡は、私がアイデアを求められた所だよな?」
「えーっと、そうでしたっけ? あまり記憶にはございませんが、恐らくそうだと思われます。そんなことより、ここの遺跡は少し、いえ、かなり特殊なんですよ? まずはそれを紹介しますね」
おいおいおい、記憶にないってどう言うことだよ。後輩君はめちゃくちゃ記憶力が高かっただろ? なんでそんなこと忘れるかな〜。
逆に不必要な情報をちゃんと忘れることができるから、必要な情報をしっかり覚えておくことができるのか? いや、この情報は必要な情報だ、しっかり覚えておいて欲しかったぞ……
しかし、彼女の口から「そんなことより」、と明確に不必要アピールもされている。これはもう、私がいくら足掻いたところで無駄だと言うことだろう。
「先輩、聞いてます? ここは立方体の世界で、まず最初に何もないただの立方体の上に侵入者は乗ることになりますね。そしてそのまま立方体が移動し別の立方体とぶつかります。そこには敵モンスターがおり、そのまま戦闘が開始されます。そして見事倒すことができたならば、そのまま敵がいた立方体に乗り、次の立方体に向かう、と言った流れになりますね」
い、いやそれ私のアイデアだから。しっかり覚えているから。そのまま敵も強くなってラスボスも確か私が考案した気がするんだが……それに、最後のギミックも。
ま、まあ彼女が何故か自慢げだから放っておこう。ここで変に藪蛇をすることもないだろう。
「あとこの立方体は操作できるんでしたね! ですからちゃん適切なルートを選べるのか、って言うのも大事になってきますね!」
うん、それも私が言ってた気がする。まあ、ここまでされるともはや清々しいまである。手柄を横取りされている感も全くないし、不快感もない。これはこれで良いのだろうか?
「あ、ん、えっ!? 何してるんですか、え、どうなってるんですかこれ!?」
彼女が突然、悲鳴というには疑問に満ち溢れた声を発した。一体何があったのだろうか?
「先輩、なんか急に彼がその立方体から飛び降りたんですよ。そして、このエリア、特に範囲が指定されていませんでしたので、彼は無限に落下し続け、最終的にシステムデバッグ機能で強制的に死に戻りされました」
「は、はい!?」
え、どういうことだ? 範囲が指定されていなかった? つまり……どう言うことだ?
「おそらく、このエリアを作った人がこのギミックに興奮して、すっかり範囲指定のことを忘れていたんでしょうね。まあ、実際このエリアは特にその必要もないから忘れたのでしょうが、その意識の隙間を彼に攻め込まれましたね……」
「そ、そうかー」
「あ、あれ? このエリア作ったの先輩じゃなかったでしたっけ? 先輩、これはやっちゃいました、ね」
うるさい! なんで問題が発生した時にだけ思い出すんだ、都合良すぎ、いや悪すぎでしょ、私にとって……
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