第143話 狂気と創意


「「……」」


 一体何を、私たちは見せられているのだろうか。


「彼、気が狂いそうにならないんですかね?」


 彼は今、果てしなく続く奈落に自ら体を投げ、そして永遠にも思えるような落下を体験し、システム的に強制的に死んでいる。


 このシステム、とはバグが起きたと思われる時に自動的にそのプレイヤーを死に戻りさせて問題を報告する、と言うものだ。これによってバグで裏世界に入ったりしても大丈夫なようになっている。


「しかし、まさかこのシステムを逆手にとって死に戻りを敢行するとは……」


 本当に気が狂っているのでは? と思わざるを得ない。最初に飛び込んだ時も躊躇いはなかったし、そこからの死に戻り行軍も何の迷いもなかった。


 やはり、どこかおかしい部分があるのでは、と失礼ではあるし、思ってもいけないことではあるが、そんなことを考えてしまう。


「あ、先輩、彼がスキルを獲得したようですよ。そ、即死無効!? え!? あれって即死の判定になるんですか、先輩っ?」


「即死無効だと?」


 でも、確かに現状だけを見れば即死、になるのか。まさかシステム無効なんて意味の分からないスキルを獲得させるわけにもいかないし、SSZSからしてもこれが妥当なスキルだと判断したのだろう。


「それにしても、即死無効か……」


 死攻撃が無効になるだけでもかなりの強化だ。彼が持っている即死スキル等も効かなくなると言うことだからな。まあ、彼以外に持っている人はほぼいないが。


 そして、このスキルの恩恵は戦闘面だけではないのだ。


 即死ぬことがない、と言うだけで、新たな環境に行くことができる。例えば、以前彼が足を踏み入れたところで言うと、冥界だな。あそこは生きているものは入っただけで死んでしまう。


 他には……あれ、これぐらいか? 別にマグマの中にも酸素がないところにも彼はもともといけるからな。


 まあ、そんな普通ではいけない場所にもいけるようになってしまう、と言うことだ。これは私がすぐに思い付かないように、彼にもその考えにはすぐには至らないとは思うのだが、その可能性も考慮しておいた方がいいだろう。


 また、彼は以前みたいに普通に狙っていなくてもそういった場所にたどり着いてしまう可能性があるからな。注意しておいて損はない。


「先輩、即死無効って、ヤバくないですか?」


「あぁ、ちょうど私も同じようなことを考えていたところだ」


「これは前に冗談で言ってた、彼をこちら側に引き込む作戦を真剣に考えた方がいいかもですね」


 彼女は真面目なお面持ちでそう言った。


 あ、冗談のつもりだったんだ。私は意外と真剣に考えていたんだが? 

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