第141話 超高層と情報量


「ん? ここはなんの階層ですかね、崖? こんなエリアありましたっけ?」


 いや、そんな顔で見られても、こちとら返す返事は「さあ、」というものしか持ち合わせてないし、仮にそれでお返ししたらそれはそれで不機嫌になるのだろう?


 だから、こういう時は秘技、「誰かに質問で振る」だ。


 こうすることによっていい感じに矛先を逸らしつつ、クライアントの意向には沿うことができるのだ。まあ、これが大人の力ってやつだな。


「なぁ、これってどこのエリアだっけ? あぁ、知らないか、ごめんごめん、邪魔して悪かったね。……いやーここはどこなんだろうね」


「じー…………珍しく私以外の人に聞いたと思ったら、結局わからなかったんですね。これは誰が制作したのでしょうか。まあ、そんなこと言ってる間に、この階層のギミックが登場しますかね?」


 いやいやいや、まず、じーって自分でいうものではないから! アニメや漫画とかでジト目を表現する為に使われるのであって、ジト目を強調する為にセルフで言うのは聞いたことないから!


 だが、言われて見れば、後輩の彼女以外に何かを尋ねることは久しぶりかもしれないな。基本的に彼女が一番詳しいと思っているからどうしても質問が集中してしまうよな、うん。


「あ、小悪魔だ! そうだ、ここは確か崖を登るプレイヤーをとことんイラつかせよう、と言うコンセプトのもとに作られたエリアでしたね!」


 いや、なんだよそのコンセプト、性格がただただ悪いだけじゃないか。一体誰だよ、そんなエリア作ったの。まあ、犯人は目の前で笑みを浮かべている人なんだろうけど……


「あ、なんか彼と従魔が競争を始めましたよ! どうや小悪魔の群れを二分してどちらが早く倒せるかを競っているようですね。あっ、彼が負けましたよ!」


「え!?」


 プレイヤーの中で最強で、どんな敵にも負けなしの彼が、自分の従魔には負けただと? 彼の従魔は一体何者なんだよ……


 それに、まだ他にも従魔はいただろう? これから増やさないとも限らないし、これはいよいよ魔王路線が高まってきたんじゃないか?


 プレイヤーの前に立ち塞がる、最強の魔物達を率いる王。普通にカッコいいな。これは具体的に案を進めていっても良いかもしれない。


 あれ、ただの妄言というか、不可能理想を言ったつもりが、何故か現実味が帯びてきてしまったぞ? これは本当に良いのか?


「ぱいっ! 聞いてるんですか? 聞いてないですよね! もう彼次の階層行きましたよー! しかも、遺跡の中なんですよ!」


 おい、情報量が多い。彼女の癖として、要点をしっかり抑えて早口で喋るから物凄い情報量になってしまう。


 戦場とかではとても優秀なスキルなんだろうが、ここではもっと落ち着いてもらいたい。それに、こっちは彼女が考えろと言ったことを考えていたのだから、責められる筋合いはないはずだ。多分。


 「ん、遺跡!?」


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