第138話 平均値と異常値
「あ、先輩! 今度は彼、マグマの世界に飛び込みましたよ!」
おかしい、非常におかしい。マグマの世界に飛び込んだ、などあり得るハズがない。しかし、その意味をしっかりと読み取ることだできてしまうのだ。
一体何故だろうか?
「まあ、それより、飛び込む、と言う表現は少し間違っているんじゃないか? 魔法陣で連れてこられたんだから、たとえ自分の意思で魔法陣の中に入ったとしても、マグマの世界に飛び込むというのは、少し、違う気がするんだが……?」
「いえ、先輩、本当に彼飛び込んじゃったんです」
え、どう言うことだ?
「溶岩浴? マグマダイブ? なんて言うべきなんでしょうね。ほら、見てくださいよこれ、まるでプールの中で泳いでいるかのように、マグマの中を遊泳していますよ?」
久しぶりに開いた口が塞がらない、という言葉を実感した気がする。それに、驚きと言う感情が一周すると、それは面白い、という感情に変化することすら分かった。
まだまだ知らないことを知れるなんて、良い職場だなー、うん。
「え、なんで彼は死んでいないんだい?」
危ない、危ない。危うく自然とこの目の前の現状を受け入れてしまう所だった。よくよく考えたらおかしいだろ、溶岩浴って。
まだマグマダイブの方がしっくりくるが、それはアイテム全ロスト必須の最悪イベントだろ? 決して目の前で行われているような優雅なものではない。断じて否定する。私はそれで何度、やられたことか……
「先輩? 大丈夫ですか? なんか悲しい顔をしていますよ、何かありましたか? それと、彼が死なないのは変温無効によるものですよ? だいぶ前に獲得してたじゃないですか!」
あぁ、確かにそんな記憶も朧げながらあるような、ないような? ってか、彼、スキル及び称号を些か獲得しすぎじゃないか? 皆このくらい獲得しているもんなのか?
「なぁ、一人あたりのスキル獲得数と称号保持数って、出すことができるか? あ、彼は抜いてくれ」
「ん、あ、はい分かりました。少し待ってください……はい、出ました。スキルの平均値は14.9で、称号の平均値は6.1ですね。なんで、また突然平均値なんて?」
「いや、彼がどれだけ抜きん出ているか知りたかったのだが……」
これは知らなかった方が良かったかもしれない。え、彼だけ異常じゃないか? どうなっているんだ? 彼だけ別ゲーで遊んでいるのか?
「あ、でも安心してください! 最近、新規プレイヤーが沢山やってきましたから必然的にこの値は少なくなっていますよ? 多い人では、三十こくらいの人もいますし……」
いやいや、なんの弁明にもなっていないぞ? 逆に多くて三十っていよいよどうなってるんだよ、これ……
新規プレイヤー応援イベントでも打ち出すかー。
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