第136話 昔話


「あ、彼が鍾乳洞エリアをクリアしましたよ!」


「そ、そうか」


 クリアと言っても、死ぬことがない彼の場合、ただ綺麗な歌声を聞くだけでクリアになってしまうのだから、特段、別に何も思うところはないな。


「なんでそんなにテンションが低いんですかー! この階層の人魚には結構しっかりしたサイドストーリーがあるんですよ!?」


「サイドストーリー?」


 なんだそれは、聞いたこともないぞ? そりゃこの制作には関わっていないから当然っちゃ当然だけど、そんな風に言われると気になってしまうな。


「お、先輩も気になります? でも、聞いてしまったらちゃんと見てなかったことを後悔すると思いますよ?」


 そう言われるとますます気になってしまうではないか。まあ、彼女のことだから分かってやっているのだとは思うが。


「すまない、教えてくれ」


「良いでしょう。この人魚は元々は広い大海原に住んでおり、毎日夜は綺麗な歌声を響かせて、周りの魚たちに聞かせていたのでした」


「そ、そうか。でも毎晩となると流石に迷惑というか、飽きるというか、魚たちも寝かせてくれ、とはならないのか?」


「もう、なんで先輩はそんな無粋なこと考えるんですかー? そもそも魚達は夜行性だから大丈夫なんですー!」


 ……果たしてそういう問題なのだろうか? まあ彼女が良しとするなら良いのだろう。


「す、すまない。続きを頼む」


「もー、まあいいでしょう。しかし、ある日突然、地殻変動に巻き込まれた人魚は一人、鍾乳洞の中に閉じ込めらることになってしまいました」


「いや、鍾乳洞はそんなすぐにできるものじゃないだろう? それに地殻変動って……」


「もー! 余計なことは考えなくて良いんですー! 小さいことを気にしすぎると禿げますよ?」


「禿げ、る……」


「はい、続きをいいますよ! 歌を聞かせることが好きで生き甲斐とまでなっていた人魚は歌を聞かせることもできずに一人虚しく歌い続けました。しかし、そのもちろん観客なんて一人もおらず、次第に心を曇らせていきました」


「あ、その続きはなんとなくわか


「そしていつしかその声は呪われたものとなり、生物にダメージをもたらすまでに至りました。なんと皮肉なものでしょう、観客を望む人魚は気づくと、観客を殺す人魚へと変わり果ててしまったのです」


「は、はぁ」


「しかし、それでも人魚はいつかくる観客の為にといつまでもいつまでも歌を歌い続けていました」


「ちゃんちゃん」


「いや、これで終わりじゃないですよ? なんで勝手におわってるんですか! クリア後の話もまだ残ってますから!!」


「え、あ、ごめん」

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