第134話 ハラスメント行為


「先輩、まだ首領の称号に関する説明は終わってませんよ? 最後の一つ、限界突破というスキルについてです」


 うわ、まだあったのか。いや、これで最後であるということを喜んだ方がいいのか?


「すまない、続けてくれ」


「はい、分かりました。この限界突破というスキルなんですが、正直なところ、彼と相性がいいのか悪いのか、あまりよく分からないのです」


 ふむ、珍しいな。彼女が分からない、というのも珍しいし、彼と相性が悪いということを聞くのも珍しい気がする。


 彼は何かと都合の良い、いや、言い方が悪いな、相性の良いものばかりをゲットしている印象がどうしてもあるからな。


「そうなのか、まあそれじゃあとりあえずは効果を説明してくれ。話はそこからだろう?」


「そ、それもそうですね。その限界突破の効果は、自分の体力が一割未満の時に発動可能で、全ステータスを1.1倍にする、というものなのです。確かに強いスキルではあるのですが……」


「そうか、彼の場合はすぐにHPを全開してしまうし、ないよりもダメージを受けないことの方が多いってことだな」


「そうなのです。ですから、仮に攻撃を食らったとしても回復をするまでのほんの僅かな時間しか使えません。あるいは、攻撃を受けないので、使えないか、というわけで中々に絶妙なライン、というわけなのです」


 なるほどなー。まあ、彼は十分に強くなっているからいいだろう。それに、私たちは別に彼に対して強くなってほしいなどは全く思っていない。むしろ弱体化してほしいくらいだ。


 だが、今の後輩の反応をみるに、どこか寂しげな表情をしているのは気のせいだろうか? 


 ……うん、気のせいだな。あれだけ憤っていた彼女がまさかそんなわけはないだろう。彼の理不尽なまでの強さを一番感じており、またそれに対して一番反応していたからな。これからもそうであってほしいものだ。


「ま、まあいいじゃないか。ところで彼は今どこにいるんだい? もう次の階層に行っているのだろう?」


「何が良かったのかは知りませんが、何かいいことでもあったんですか? 彼は今、洋館の前にいますよ」


「羊羹?」


 あの、美味しい羊羹か? ゼリーとはまた違う日本の甘味で、小豆の程よい甘さが特徴的なあれか。なぜかは分からないが、たまに食べたくなってしまうよな。ん、その羊羹か?


「ちーがーいーまーすー! そんなわけないじゃないですか! 何で巨人を倒した彼が羊羹の前に一人佇んでいるんですか!  シュールすぎますよ! そっちじゃなくて、洋風な館、洋館です!」


 あぁ、そっちか。私も急に羊羹なんて言われてびっくりしたぞ?


「いやいや、ああ、それか、みたいな顔しないでくださいよ! そんな可能性普通抱かないですからね!?」


「まあまあ、それより、その洋館には誰がいるんだい?」


「…………ュバスです」


「ん? 何だって?」


「サキュバスです! そんなこと女性に言わせないでください! セクハラで訴えますよ!」


 えぇ……


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