第127話 後輩の心境


 結論から言います、彼は大丈夫ではありませんでした。


 まず、彼は薬物で死ぬ、というゲーム世界でなんでそんなことするの? という奇行に走りました。そして、更に、一回で飽き足りるはずもなく、何度も何度も薬物で死にまくりました。


 彼が本当の薬物中毒にならないかと心配しました。嘘から出た真という言葉もありますから、偽物の快感でも本当に彼の人生を狂わせてしまわないかと思ったのです。


 まあ、薬物を作った担当者からは快感はなく、少しの高揚感ととてつもない不快感に襲われ、中毒性はないはず、と言っていたので大丈夫でしょう。


 もしダメだとしたら彼が最初で最後の犠牲者になってもらい、薬物は蟻にしか効果が出ないようにします。


 また、彼にはしっかりとしたアフターケアもしなければなりませんね。これは要注意です。


 しかし、その期待は良い意味と悪い意味の両方で裏切られました。


 まず良い方では彼は全く薬物に対して中毒性を見せていませんでした。これは担当者のいうことを信じて良かったようです。相当な不快感を与えたのでしょうね。


 ですが、この不快感がまずかったのでした。


 そもそも、彼のプレイスタイルとして、自ら死にまくることでその耐性を獲得する、というものを得意としてきました。


 そしてそれがこの場面においても遺憾無く発揮されたのです。


 彼に襲った様々な不快感、それを彼は一身にうけ、苦しみに耐え、そしてついに耐性スキル、いや無効化スキルを手に入れました。


 それらを紹介しましょう。まずは薬を仕様したことによる錯乱状態に対する、錯乱無効。そして、なんとも言い難い漠然とした不安に襲われる恐慌状態に対する恐慌無効。存在もしない何かが見える幻覚状態に対する、幻覚無効。自分が何者かであるかよくわからなくなる自失状態に対する自失無効。尽きることのない、喉の渇きに対する渇水無効。そして最後が、全身を襲う痛みに対する痛覚無効を獲得しました。


 これらの状態異常はとても珍しいものですが、それゆえに対策を取られにくいものでした。存在すらも明るみに出ていないものも多くある中、彼は一度の行動、アクションによって一気に解決してしまいました。


 なんという効率的な動きなんでしょう。彼はこのような正にこのゲームの最適解のような行動を今までに多くとってきています。


 運営としては厄介な存在ですが、一人の人間として、鋭い洞察力、そして苦しみに対する耐性、そして行動力の凄さ、どれをとっても尊敬できます。


 これからも彼の動向から目が離せませんね。要注目です。

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