第122話 オブラート(物理的)
「「……」」
一体、私たちは何を見せつけられているのだろうか。いや、もちろん私たちが勝手に覗き見ているというのは知っている、知っているのだが、その事実を差し引いても私たちは何をみているのだろうか。
「彼、なんかあっという間に食べちゃいましたね」
「あぁ」
「それも二回目だからか、前回よりもスピーディーに食べてましたね」
「あぁ」
「それにしても、海中に漂っているタコ、それも禍々しい巨大蛸、クラーケンをあんな風に食べる人って彼以外にいるんですかね?」
「あぁ」
「先輩!? ちょっと聞いてますか?」
「はっ! すまない、少し呆然としていた」
「ま、まあ、今回に限っては無理もないでしょう。なんせ海中に漂う巨大蛸をあんな風に食べるなんて、ねぇ。前回はまだマシでしたよね?」
「あぁ、そうだな。前回は足から徐々に食べていってた気がする。そうでもなければその時にこんな気持ちになっているはずだし、それを忘れることもないだろう」
「そ、それもそうですね」
彼はミノタウロスを倒したあと、次の階層へとそのまま赴き、綺麗な海に高揚しているかに見えた。
しかし、海に入って、クラーケンを見つけるや否や、機嫌を悪くしクラーケンを龍化した状態で頭から食べてしまったのだ。
それだけならばまだ、良かったのだろうが、彼は頭を開け、中にある内臓を引っ張り出して、引きちぎって食べていたのだ。
彼の視点からどのように見えていたのかはわからないが、脳が啜られ、眼球も卵でも食べるかのように貪っていった。しかもまだこの時蛸は生きているのだ。
食べられながらも抵抗し続けるクラーケンには拍手を送りたいが、その様子は私たちの正気度、SAN値が些か削れるほどにはグロかった。
蛸の頭の中ってあんな風になっていたんだな。
まあ、せめてもの救いとしてタコスミがその惨状をオブラートに包み込んでくれたことくらいだろうか。
これから後輩がタコを食べる時には、毎回このシーンが脳裏をよぎることだろう。私は幸い食べる機会はないだろうから、気にする必要もないが。
「センパーイ、今からお寿司行きませんかー?」
ん?
その後彼女が何食わぬ顔してタコを頬張っていたのはまた別のお話。
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