第120話 谷山理論


 今日は焼肉に行こうと思う。これは日頃の疲れを癒す為だ。極上のお肉を食べに行こうと思う。


 しかし、ここで一つの問題が発生する。


 私はヴィーガンである、ということだ。


 ヴィーガンというのは、動物性の食べ物を一切とらない、菜食主義のことである。


 元々、健康の為に始めたものであるが、こうして時々、あのお肉やお魚が食べたくなることがある。


 しかし、その誘惑に負けてしまうと、次の日やその後に大きな影響を与えてしまうことを今までに数多く経験している。


 だから、今回はヴィーガンの為のお肉を食べに行こうと思う。


 最近はもう科学も発達しており、植物性タンパク質から、お肉を作ることができているらしい。


 それも、以前のようになんとも言えない感じのお肉ではなく、ちゃんと牛、豚、鶏と選べるのだ。この三種以外にも、馬や羊なども開発されているらしい。


 今回はガッツリ、牛肉のお肉を食べたいと思う、そう、ステーキだ。


 この植物性タンパク質で作られたお肉は、本物のヴィーガンの間では食べていい、食べちゃダメ問題が勃発しそうになったが、ある時、ある人が、「これって草からできたんだろ? なら食っていいでしょ」と言う発言によって爆発的に普及したようだ。


 どうも、その人が有名で人気があったことが一因であったようだ。


 まあ、みんな心の中ではお肉を食べてみたかったんじゃなかろうか。


 それに、そのお肉のおかげで私みたいななんちゃってヴィーガンも急増したこととなったのだ。健康志向の人に向けて商品開発された経緯もあったのだろうが、誰でも長生きはしたいだろう。


 そんな訳で到着したお店に入る。そこは別に高級店というわけでもないが雰囲気が落ち着いており、とても好きなお店だ。


 食べ物が運ばれてきた。うむ、この香りはどう嗅いでも牛だ。程よくミディアムレアに焼かれたお肉はとても柔らかくてジューシーだ。


 タンパク質に飢えた体にこのお肉はとても染み渡る。


 空腹が食の最も良いスパイスという言葉があるが、それと似たようなものだろうか、谷があるから、その次の山がより大きく感じられるというものなのだ。


 ふう、これで明日も仕事を頑張れるな。


 こうやって日々の疲れを癒やしていかなければ、到底やってられないからな。


 仕事は楽しいが、やはり楽しいだけではない。そして、人生にも先程の谷山理論は当てはまる。


 谷があってこそ山がうまれる。谷もなければ山もない。いや、正確には片方だけが存在することもできるかもしれないが、それだと平地の部分が山、もしくは谷となってしまい、前提と矛盾してしまう。


 よし、寝るか。

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