第119話 勝って負ける
「偽物道場??」
なんだそれは聞いたこともないぞ? そんなものが存在するのか?
「はい、まあ、私たちがおふざけで作ったものなんですけどね。道場の見た目をしていますが、中にいる師匠は別に何者でもなくて、ただそこで寝ている、ってだけの人です。特別何かを教えてくれるわけでもないんですが、間違って入ってしまうと、かなりの時間が取られる仕組みとなっているんです」
「時間が取られる?」
「そうなんです。この爺さん、何も教えられないくせに、そしてそれが露見するのが嫌だから、無理難題をやってきた人に押し付けるのです。もし、それに成功して、そのただの爺さんの悪行を見破ることができれば無事、その道場は解体される手筈になっているのですが、未だ成功者は一人としていません」
「ふむ、それはどんな試練なんだ?」
「それは……その爺さんの目を開けさせる、と言うものです。爺さんは周りでどんなことをされても寝ることができる達人で、どんなに頑張っても目は開かないのです!」
「そ、そうなのか。でも先程、成功すれば、と言わなかったか? つまり成功する方法はあるんだろう?」
「もちろんですよ! でも、案外それを試す人はいないようですが、、」
「ん、もしかして」
「そうです! そのもしかしてで合ってると思いますよ! 物理的に開けるんですよ! 爺さんはあまり、というかほとんど体を洗っていませんからどこか不潔な感じがありますし、それを差し引いても、ご老人のご尊顔に触ると言うのはどこか気が引けますからねー」
「や、やはりか……」
うちの後輩は何をしているのだろうか全く。まあ、本人は楽しそうにしているし、別に合って困る者じゃないし、むしろミニゲームっぽくて面白いんだが、もう少し形態がどうにかならなかったのだろうか。
まあ、過ぎたことを言っても仕方がないがな。
「ふふふっ! この道場に入ったが百年目! 彼はこの道場にどれくらい留まってくれるんでしょうね〜?」
とても嬉しそうだ。彼に一泡吹かせられるからだろう。まあ、これなら流石の彼でも……
「「あ、」」
❇︎
結論から言おう、彼は開始二秒もかからずに爺さんの目を開けた。
後輩の作戦も一瞬にして、打ち砕かれ、逆に一泡吹かせられたのは、彼女の方になってしまったようだった。
しかし、それで終わりかと思えばまさかの事態に発展した。彼が、その爺さんに師事を受けたのだ。爺さんはただの爺さんであるから、適当な訓練をさせていたのだが、それを律儀に彼はこなしていった。
そしてそれから約一ヶ月が経った。
彼は天叢雲剣という、とても強力なスキルを手に入れてその道場を旅立った。その目はとても清々しい目をしていた。
反対に、彼を留まらせるという目的は果たせたものの、予想外すぎる結果に、その目を酷く濁らせた彼女は、彼女のデスクで放心しているようだった。
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