第107話 平穏と代償


「「…………」」


 これは気まずい、ひじょーーーに気まずい。今、の現状を説明すると、私が彼女に対して、彼が死に戻りをする可能性と、それに伴う、ケルベロスの大虐殺(一匹のみ)が開始されるのではないか、という指摘をしたのだ。


 すると、彼女は案の定、頭を抱えてその未来を呪った。とても激しく。


 しかし、蓋を開けてみるとそ呪いが効いたのか、彼は死に戻りをすることはなく、鳥型の従魔に乗って死者の国を易々と越えていってしまった。あ、そういえばあのモンスター、今では鳥型というより、グリフォンみたいな格好になっていて少しかっこよくなっていたな。


 まあ、そんなことはどうでもいいとしてだ。私の指摘で彼女は悩んだり、傷付いたりする結果になってしまった。側から見れば普通に私が悪いのだろう。


 だが、私にも言い分はある。それは、私の指摘、発言の妥当性だ。事実、彼の行動パターンを見る限り、十分に死に戻りパレード、ゾンビアタックをする可能性は大いにあった。彼女もそうだったからこそ、傷つき、悩み、悲しんだのだろう。


 つまりだ。私の発言に彼女を傷つけようとする意思はなかったということだ。もし、仮にあったとして私が虚言を吐いていたのなら彼女は傷つきもしなかっただろう。なぜなら彼女は虚言を見抜くだけの能力はあるのだから。


 いや、しかし、私が余計な発言をしなければ良かった、という指摘もあるのか。わかっていても、あえて知らぬフリをすることで他者を傷つけない、大人には割と求められるスキルなのだろうか?


 しかし、私は思ったことをすぐ口に出して言ってしまう対応でな、つい、指摘してしまったのだ。だから、私も自分に落ち度があることは認めよう、しかし、完全なる悪意ではない、ということだけは理解してもらいたい。



 ……さんざん、頭の中では言い訳を並べたが、現実ではこれほどまでに饒舌とはいかない。小さい頃からいつも頭の中では反論は得意だった。しかし、自分よりも立場が上の人や、強者には歯向かうことができなかった。惨めな男だったのだ。


 そう、だから謝れと言われれば……


「先輩、謝ってくだs「ごめんなさい」


 私は深々と頭を下げて謝った。謝れと言われれば、すぐに謝ってしまう口だった、それで穏便にことが運ぶなら、と。いつもそういう思考回路で成果し、日々を乗り過ごしてきた。


 まあ、この職場についてからはそんなことは滅法なくなったがな。今回も久しぶり過ぎて思い出した、というレベルなのだから。


「先輩、また今度カフェにでも連れていってください。そしたら綺麗さっぱり忘れますから!」


「お、おう。分かった、必ず行くと約束しよう」


 そう言葉を交わし、その場はなんとか穏便に済ませることができた。まあ、私のつまらぬ過去よりも今はこのゲームを何よりも面白くすることを考えねばだな。明日からもしっかりと業務に励んで行こう。


❇︎


 今日もいい天気だ。オフィスにも平穏な空気が流れている。やはり、平穏というのが一番心が安らぎ、落ち着くのだ。この時間を噛み締めていたいものだ。


「先輩! 彼が、彼が、帰らずの塔にとうとう到着しました!」


 ついにきてしまったか、まあ、事件があるからこそ、その対比で平穏というものが生まれるのだ。平穏を獲得する為に、頑張って日々を乗り越えていくのだ。


 あ、ちなみに、後輩といったカフェは、カフェという名のランチタイムで、彼女はお腹いっぱいになるまで料理を頼んでいた。


 ……これも平穏のための経費なのだ。







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戦争があるから、平和がある、みたいな話です(多分違う


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