第106話 最悪な未来と不毛な現実


「た、た、倒しちゃいましたよ、彼! あ、あのケルベロスちゃんがこんなにも早く敗北を味わうだなんて……」


 彼女は相当ショックを受けているようだ。まあ、彼が死者の国をいよいよ攻略しようとした時からもう、既に危うかったのだが、今ちょうど今、臨界点を迎えたのだろう。


「生ある物は皆、いつかは滅ぶのだ。これも私達が生み出してしまった以上、定めれられた結末というものなのだ」


 ま、今回倒されたケルベロスは普通に復活するんだけどな。だって、ゲームの住人だし、正確には生ある物っていう分類にも疑念が残るしね。


「せ、先輩は作った私達が悪いっていうんですか! それなら先輩も同罪ですよ?」


 い、いや何を言っているんだこの子は、この場において誰が悪いとかないだろう。まあ、強いていうとするのならばあれほどのモンスターを生み出したことが最大の予想外であり、過去唯一の分岐点だった気はする。


 それを彼女に言ったところで仕方のないことだし、そもそもどうしようもないのだ。そんなことで一喜一憂している方がもったいないだろう。


「誰が悪いかなんて、ケルベロスも気にしていないと思うぞ? ケルベロスは倒される為に存在していたようなもんだ。アイツもやられて嬉しいと思うぞ? 役目を全うできたな、ってな」


「グスン、、、先輩……ケルちゃんのことアイツ呼ばわりだけは絶対にしないでください」


 あっ、はいそうですか、わかりました。てっきり私の言葉がささってくれたのかと思っていたのだが、やはり乙女心というものは分からぬ物だな。しかも、アイツ呼ばわりだけは絶対ダメ、って過去に何かあったのか? アイツに親でも殺されたのだろか?


 ゴホン、まあ茶番はこれくらいにしておいて、今後の彼の動向の方に注目しよう。本来はこちらの方が大事であるだろうに、彼女はケルベロスにご執心のようだ。


「あっ、えっ?」


「ん、先輩どうかしたんですか?」


「ん、いや、ね、その……」


「先輩にしては妙に歯切れが悪いですね、いつもならどんなことでも平気でいうくせに」


 おっと、今私は目の前の後輩のことを気遣って言葉を濁していたのに、そんな心にもないことを言われるだなんて心外だな。


「ふむ、分かった。では現状を説明しよう。まず、端的にいうと彼が死亡したのだ」


「え? ケルちゃんを殺したにっくき彼がですか?」


 ん? 確か前のイベントでは彼女は彼に肩入れをしていなかったか? 状況が変われば立場も変わる。昨日の友は明日の敵、とはまさにこのことなのだな。私は未来永劫続く友情というものが、欲しいな。まあ、そんなものも幻想でしかないのだろうが。


「そうだ。まさにその彼が死亡したのだが、その原因が面白くもあり、怖さもあるのだ」


「と、いいますと?」


「彼は、ケルベロスを含め、大勢の死の軍団がやってきた冥界へと繋がる門を潜って死んだのだ。つまり、彼は一時的に冥界に入った、とも言えるな」


「へー、変なことしますね。まあ、私は彼が死んだというだけで満足なんですが?」


「それも今だけである可能性が高い。彼の今までの行動パターンから推測すると……」


「なっ!? ま、まさか!!」


「そう、そのまさか、地獄のケルベロス乱獲の周回が行われるかもしれないのだ。それも、ケルベロスが目的ではなく、冥界に行っても死なないように、というのが目的になる。つまり、大好きなケルちゃんが…………」


「い、いやーー!!」

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