第105話 目安と予知


「あー、とうとう彼が本格的に攻略に乗り出しましたね。帰らずの塔を見据えて、死者の国を攻略しようとしてますよ、先輩! 良いんですか?」


「いや、良いもなにも我々にはもう何もすることがないだろう? ただ、彼の行く末を見守ることしか……」


「ま、まあそうですけどそれにしたって、まだ死者の国は攻略される予定じゃないですよね? まだ当分先だったはずなのに……」


「あれはあくまでも目安だぞ? 私たちの想定よりも早く強くなる者がいれば当然、その目安もずれ込んでしまう者だろう」


「……さっきから何ですか、その諦観めいた発言はー! そんな悟ったみたいな、どうしようもないみたいな言い方しないでくださいよ! このゲームが攻略されていくことは喜ばしいことでもありますが、着実に寿命が削り取られているとも言えるんですよ!? それなのに何も感じないのですか!?」


 そ、そんな寿命が削り取られるなんて……


 まあ、確かにそんな風に捉えることもできなくはないが、それがこのゲームの役目だろう? 生みの親としては確かに少しでも長く生きて欲しいという気持ちはあるが、それでも全うにも生きて欲しいからな。もう、後は運任せなのだ。


「そうだな。だからこそ、見守るしかないのだ。このゲームがどういう風に楽しまれ、役目を果たしていくのかを」


「……はい」


❇︎


「いや、先輩ちょっと待ってください。もう、彼ケルベロス手前の死の軍団を屠り終えたんですけど……」


 それは我々が彼のいく末を、ゲームの雄志を見届けようと決意した、数分後の出来事だった。彼が死者の国に入ったと思いきや従魔達に蹂躙させ、瞬く間にここまで辿り着いた。早い、早すぎる。


 もう、あまりにも規格外すぎて我々の手にも余るのだが、いよいよこうなってくるとケルベロスの方が心配だな。あの子はかなり強力に仕上げているから、そんなに心配することはないとは思うが、彼が負ける未来というのもそれと同様に想像し難いのだ。


 うむ、もうどうとでもなれ、なのだ。先ほどは後輩の手前、カッコつけたことを言いはしたが、あれは本心であり、建前だ。何せ、彼の前ではもう何も意味がないような気がするのだ。この世には諦めた方が早いことも多くある。


 そんな中、彼女は自分が信じた物に向かって直向きに突き進んでいるから、エネルギーを貰えるし、時に眩しくもあり、羨ましくも思う。あぁ、私は大人になってしまったんだと。


「あ、先輩! ケルちゃんが押してますよ! 彼も防戦一方です!」


 ……後輩よ、それをフラグというのだ。まあ、それを知るには彼女場合、まだまだ年月が必要そうだがな。


 それにあの彼が防戦しかしていないのは、逆に不気味ではないか? あれほどの攻撃の選択肢を持っているのだぞ? 手始めに適当に攻撃しても何らおかしくはない。


 それなのに、防戦をしているってことは彼なりに慎重な滑り出しをしているってことであり、、


「あっ、彼がケルちゃんの攻撃を使って反撃しました!」


 そう、そのタイミングを虎視淡々と狙っていたということでもあるのだ。


 彼対ケルベロス、勝敗がどちらに傾くかは私には分からないが、彼女の反応を見ていれば少し先の未来は見えそうではあるな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る