第102話 バッドエンド
「せんぱーい! お昼ですねー! ご飯いきましょーう!」
……今日は稀にみる後輩テンションマックスデーだ。まあ、これより上のテンションもあるのだろうが、かなり高い方の部類に入る。
そして、理由はもう知っている。私がランチを奢るからだ。
彼女のランチをランチだからといって侮ってはいけない。彼女に常識は通用しないのと同様、彼女の胃袋にも常識は通用しない。
それに、私は基本一日一食であるからただでさえ食が細いのだ。なのに、彼女というのは……
「先輩! 今日は肉ですね! 私最近良いお店を見つけたんですよ! ささ、早くいきましょー!」
昼から肉。
この言葉の重みを理解できるのは、私のようにある程度歳を重ねてからだろう。
一口目の肉は確かに旨い。だが、その一口を入れると同時に胃がもたれる。そして二口目からは思うように箸が進まなくなるのだ。
旨い脂が、気づけば自らの体を締め付ける、いや太らせるギトギトの液体にしか見えなくなってくるのだ。
そして、その事実を知っている者はもう肉を食べるという行為を好まなくなるのだ。たれがバッドエンドを迎えることを知っていてそれを体験するだろうか。
映画や漫画、アニメなどのバッドエンドはただ観るだけだろう? それを実体験するというのはまた、全く異なるものなのだ。
「ふぅ。そうか、それはどこにあるんだい?」
「それは行ってのお楽しみですよー!」
「その店のイチオシも知ることは叶わないのか?」
「もちろんですとも! その店の秘伝のタレと特殊な製法は門外不出ですよー!?」
今の発言で秘伝のタレと特殊な製法があることが露見してしまったのは構わないのだろうか。まあ、存在は大っぴらになっているものだから良いのか。それに、バレたとしても作れないから門外不出というものになってるんだろうな。
「じゃーいきましょー!」
「お、おう」
そのお店はまるで隠れ家のようなお店だった。知る人ぞ知るようなお店で、なぜ彼女が知っているのか不思議なくらいだ。
店内もこじんまりとしていて、いかにもな秘密空間を演出している。これは……アリだな。
「ご主人ー! いつもの頼みます!」
なっ、彼女はここの常連なのか? こんな一般人じゃ存在もしらないようなお店のか!?
「かしこまりました」
そういって出されたのは、小さなスープのようだった。
ゴクリ、
それを飲むと、クラッとするほどの美味であった。端的にいうなればワカメスープなのだが、それは私が知っているワカメスープではなかった。
これまで複雑な味、香りを持ったワカメスープを今まで飲んだことがないのだ。
その後、出てくる料理のどれもが逸品級で、予想していたハズのバッドエンドはいつまで経っても訪れることはなかった。
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