第96話 いつもの風景
ガチャ
ドアを開けると、そこなはもうすっかりと見慣れて第二の家のようになったオフィスが見えた。
職員の数もいつも通りで、なんら変わりのない風景だ。そして、
「あ、先輩! おはよーございます!」
朝から元気なこの後輩ももちろんいる。逆にいない時の方が珍しいものだ。彼女は有給を使ったことがあるのだろうか?
まあ、うちの会社にとっては有給休暇という概念があまり馴染み深いものではない。基本的には休みたい時に休んでもらうようにはしているのだ。だが、皆、真面目というかゲーム好きというか、あまり休みを取りたがらない。
むしろ熱があっても来てしまう人の方が多いくらいだ。そして彼女がその筆頭というわけだな。どう見てもインフルだろ、って時は帰したがそれ以外はあまり言わないようにしている。
半ば諦めだな。彼女を家に返すのは、ゲームで確立が1%未満のレアドロップを引くことよりも根気がいる作業なのだ。
「あ、なんですかその顔は! もしかして昨日夜中までゲームしてたんですか? もー、夜更かしは体に良くないですよ? それにどうせここで嫌でもゲームに触れるというのに、何故先輩はわざわざ身を削ってまでゲームをするのか……」
彼女は私の顔を見たとたん、そう口にした。そして最後に、到底理解できない、という一言を付け加えて。まあ、直接言わなかったのは彼女なりの配慮だろーが、
「おーい、聞こえてるぞー」
「聞こえるように言ったんですー」
そう、彼女は大抵聞こえるように言っているのだ。まあ、いうつもりが無ければ心に留めていれば良いだけの話だから、当たり前っちゃ当たり前だがな。
それにしても彼女の観察眼は毎度のことながら凄い。私がゲームで夜更かしをした日は大抵先ほどのようにバレてしまう。それも私の顔を一目見ただけでだ。
その目はゲームやゲーム開発にも生きているから良いのだが、私にはあまり向けないで欲しいものだ。まだ実践したことはないのだが、嘘をついてもすぐにバレそうだ。
まあ、偶にやるからこそ別ゲーは楽しいのだ。私の本職はこちらであるからな。今日も一日張り切っていk
「先輩!」
相変わらず先輩の出鼻を挫くのが上手なことだ。それは後輩としてどうなんだ? まあ、彼女の場合は表面上先輩とは言ってるものの、心の中ではそんなにリスペクトはあっても、敬意というものは存在しないだろうな。
「ど、どうした。まだ朝だぞ?」
「そうですが、例の人物もログインしているのですから仕方ありませんよ!」
「そ、そうか」
朝の立ち上げくらいゆっくりさせて欲しいもんだな、全く。
「それで概要はなんだ?」
「はい、彼が……彼が、兵長になっちゃったんです!」
…………はい?
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