第95話 先輩の休日


 俺は狩人をしている男だ。得物はこのでっかい大剣、ずっと俺の相棒だ。


 今回は獰猛な巨大ゴリラを倒しにいく。どうも雪山の集落に突然現れて、悪さをしているらしい。早く倒さなければそこの住民達が皆殺しにされてしまうだろう。急がねば。


❇︎


 目標を発見した。まだ獲物が見つかっていないのかのそのそと歩いている。


「……っ!」


 なんて索敵範囲だ、かなりの距離があるのにもう捕捉されてしまった!


 獰猛巨大ゴリラは俺を見つけた途端、左腕を上げて飛びかかってきた。あのぶっとい腕で俺を殴ろうというのか。


 なんとか間一髪のところで避けることができたがかなりの迫力だな。だが、こんな所で怯んではいられない。ここからが俺の戦いの始まりだ!


 まずは、間合いをとって、相手の右腕回転攻撃を見送る。そして、一瞬の隙をついて右腕に飛び乗る。


「はあっ!」


 かなり揺れが激しいがどうにか耐えて、一撃を相手の顔面に加える。


「グギャアアアア!」


 流石にこの攻撃はいかに獰猛巨大ゴリラといえど効いたようだ。俺の攻撃に対してのけ反り、転倒してしまった。今がチャンスだな。


 俺はゴリラの顔面に移動し、スキルを放った!


「【四連華】!」


 このスキルは四回の斬撃を放つ技だ。まずは抜刀しそのまま一撃、その後、腰を捻り力を溜め全身の回転力を使って背負い投げの様にもう一撃を放つ。更に体勢を立て直し今度は腰を低くして剣を担ぎ今度も投げるように叩き切る! そして、最後はその勢いのまま、バク宙しながら全体重を乗せて一撃を放つ!


「てりゃぁあああ!」


 だが、その攻撃をくらってもなおゴリラは平然と起き上がり、バックステップをして距離を取った。俺はすぐさま納刀し次の攻撃に備える。


 ゴリラは起き上がり、ドラミングをしながら天に高らかと吠え、自分の存在を声高に証明した。まるで、自分が誰よりも強いのだと誇示するように。


 そのまま全身の毛を逆立たせ、両手を上げて俺にのしかかろうと飛びかかってきた。


 だが、その攻撃は予測ができていた。必要最低限の動作でギリギリ躱し、その攻撃で体勢が崩れたゴリラの顔面に抜刀して一撃をお見舞いした。


 しかし、それでもまだまだだ。ゴリラは両腕をブンブンと振り回し、群がるハエを蹴散らすかのように暴れ倒した。俺は全身を投げ出して避けた。これには本気で避けてしまった、本当に危なかったな。


 これで俺も体勢が崩れてしまったのだが、当然ゴリラもそれを見逃してはくれなかった。最初と同様に左手を上げて飛びかかり、そのまままたもや両腕を振り回して暴れた。攻撃パターンが脳筋だがそれが厄介なのは言うまでもない。俺は避けるだけで精一杯だった。どうにか隙がないものか。


 俺が逃げ回っていると、再び、両腕を上げて俺にのしかかるように飛びかかってきた。この攻撃は既に見切っている。そして、攻撃直後の隙も大きい!


「はっ!」


 抜刀して一撃を叩き込んだ。流石にこれは効いたようで、体勢を崩し、蹌踉めき、倒れてしまった。このチャンスも逃すまい!


「【四連華】!」


 またもやスキルを発動し、十八番の四連撃を顔面に加える。


「グァァアアアア!!」


 ゴリラにはクリーンヒットだったようだ。しかし、それでも痛みにのたうち回っただけで、生きていた。そして、あろうことかまだ見ぬ本気モードに突入した。


「スゥーー、ギャアアアアアアアアア」


 なんと、口からビームを発射したのだ。ゴリラと同じ色の灰色のビームだ。かなりのエネルギーが濃縮されており、擦りでもしたら命に関わることが目に見えて分かる。


 ただ、今回はどうやら俺の運が良かったようだ。ビームを放つということは、言い換えると自分が固定砲台になってしまうということだ。そして、ガムシャラに避けた先にいたのはビームを放つゴリラ。その横腹に抜刀しながら一撃を放つ。


「おりゃあああ!!」


 またもやゴリラが転倒した。確実に食らっているな、あと少しだろう。だが、ここで油断してはならない。油断した俺の同僚、仲間が何人やられたことか、アイツらの二の舞になることだけは御免だ。


 そのまますぐさま駆け寄り、またもやスキルを放つ。


「【四連華】ぁああ!!」


 抜刀からの一撃、腰を捻ってからの回し斬り、そして腰を低くしてからの投げるような一撃、最後は勢いを使って、バク宙斬りだ!!


「グァァアアアア!!」


「なっ……!」


 ま、だ死んでないだと!?


 一瞬の隙にゴリラはバックステップをし、そのまま宙に大ジャンプをし、俺のもとへ流星のように降ってきた。ギリギリの所で避けることに成功したのだが、まだ、これほどの力があるとは、いけるだろうか……


 いや、そんな弱気じゃダメだ。いけるかどうかじゃない、いくしかねぇんだ!


 またもやビームを放ってきた。しかし、これは技後硬直がかなりある。その隙に顔面に一発!


「グギャギャアアアアアアアアア!!」


 これは先程の天への咆哮だ。ゴリラも俺に勝つために自分を鼓舞しているのだろう。だが俺も負けてられない。俺だけじゃなく何人もの命がかかってるんだ!


「いっけぇえええ!!」


 爆音の咆哮に気圧されそうになりながらもまたもや抜刀斬りを一撃、喰らわせた。そして、ゴリラを転倒させることに成功した!


 これで最後だ!


「【四連華】ぁあああ!!」


 俺の三度目の攻撃にゴリラは転倒した。


 これで死んだかと思いきやまだ生きていたようだ。しかし、もう虫の息、足を引きずりながら逃げようとしているではないか。


「逃すかぁあああ!!」


 俺は残った体力の全てを使い、追いかけて飛び乗り、最後の一撃を顔面へと放った。


 その一撃を仕舞いに、もう獰猛巨大ゴリラは動かなくなった。


「ふぅ、任務完了」



❇︎


 ふぅ、たまには別ゲーをするのも悪くないな。新たな視点も得られて、自分のゲームに足りないものや、逆に強みも知れるからな。


 これからも積極的にしていこう。

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