第90話 徘徊型と絶望
「あ、先輩! まさかの彼が徘徊型エネミー:盗賊と接触しました!」
ほう、珍しい名前を聞いたものだな。
徘徊型エネミー、それはまあその名の通り徘徊する敵NPCなのだが、その存在の多くは知られていない。なぜなら、本当に稀にしか登場しないからだ。
まあそれもそのはず、こんな奴らが至る所に出現したらたまったもんじゃない。出会ったら確実に殺され、盗賊ならば追い剥ぎされる。
つまり、こいつらに出会うことは相当に運が悪いということなのだ。
まあ、もちろん一応の救済措置として倒した際の経験値はかなり多めにしているのだが、未だ倒されていない。まあ、そもそもプレイヤーとの接触回数からして少ないからなんとも言えないのだが。
「あ、なんか彼、ぷぷっ、ロールプレイしちゃってますよ! 多分これエネミーのことプレイヤーだと勘違いしてますね、まあその可能性もなくはないですけど、わざわざプレイヤーで盗賊しますかねー?
それにしても、断る、ってぷぷっ」
おいおい、そんなに笑ってていいのか? まあ後でどうせその笑いが凍りつくことになるのだろうから今は笑わせてやるか。
それにしても彼はしっかりロールプレイをしている。この世界で生きる以上そうやってしっかりロールプレイをしてくれるのは嬉しい。
まあ、メタ視点で楽しむのアリだとは思うが、やはりドキドキとワクワクはこちらの方が勝るだろう。
そんな中、盗賊が彼を斬りつけ始めた。
「あ、あっ!」
彼女は驚いた。彼は一歩も動かなかったからだ。そしてその場に留まり続けた。
「え、これどうなってるんですか?」
彼は全く死ぬ気配を見せなかった。
「彼は、斬撃障壁と自動回復で耐えてますね。なんということでしょうか、盗賊達のDPSが追いついていないなんて……」
彼はどこかワクワクした表情でその攻撃を食らっていた。それとは対照的に盗賊達はこの不気味な人間に対して少しずつ恐怖が芽生えてきていた。
盗賊達が今にも諦めそうになった時、彼のその表情の意味を理解した。
ーーースキル【斬撃無効】を獲得しました。
「条件を満たしました。【物理攻撃無効】を獲得しました。【刺突無効】【打撃無効】【斬撃無効】【衝撃無効】【振動無効】は統合されます」
「「は?」」
その時、二人の気持ちが完全にシンクロした。
私たちは彼の状態をチェックする為に、そのログをずっと追っていた。そしてそのそこに現れた文字列に唖然としてしまったのだ。
「「物理攻撃無効!?」」
その言葉を最後に、二人は事切れた人形のように、呆然と椅子にグッタリともたれかかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます