第84話 先輩の宿命
「先輩ー、お腹空きましたー。ランチ奢って下さーい」
でた、作業終わりのおねだり。
実際、彼女はしっかり働いてくれてるから、こちらとしてはなんとも断りづらいタイミングなのだ。彼女がなんとなく疲れていて、大きな作業が終わった時にこうしてねだってくることが多い。そして、
「分かったどこがいい?」
こうやって返事するのがお決まりだ。彼女もそれを分かっているのだろう、そして、
「寿司がいいです!!」
彼女は遠慮という二文字を全く知らない。
それにしても寿司か、、財布が痛むな。
❇︎
お店に到着すると私はいつも真っ先にお水を飲む。自分の中で今日は絶対、食べすぎないぞ、という意思表示だな。これをすることによってお腹を膨らませるのと同時に、自分の意思を再確認するという意味も込められている。
「やったー! じゃあ、私はウニと中トロと赤身とハマチ! あとはー、エビとホタテと……」
彼女は決まってこうだ。遠慮という二文字は何も店選びの時だけに欠如しているわけではない。ネタ選びの時にももちろん欠席中だ。
「先輩は何も頼まないんですかー?」
「……私は玉子と、いや玉子だけでいい。今日はそこまでお腹が空いてないのだ」
「そうですか! なら私がその分食べなきゃですね!」
何故そうなる。
先輩が玉子しか頼まなかったのだぞ? 少しは考えろ、察しろ!
まあ、そんなところがゲーム開発には役に立っているのだが。やはり日常で共にいるとなるとかなり苦労する。早く職場にもどるか、一人になりたい。
「うわー! 美味しそー!」
この嬉しそうな表情を見るときて良かったとも思わなくもないが、それでもこの人物というのはただ、目の前の寿司達に興奮しているのであって、私に対しては何も思っていなんだよな。
毎回、彼女にご馳走する度に思うのだ。何故私はここにいるのだろう、と。
作業終わりは疲れているだろうし、感謝の念を伝える為にもと思っているのだが、時が経つにつれて徐々に現実がみえてくるのだ。まあ、仕方がない、これが先輩としての末路なのだろう。
❇︎
「ふぅー、いっぱい食ったー!」
元気そうでなによりだな。私の財布から元気をすっかり吸い取ってくれたようでなによりだ。
まあ、正直に言うとこれで彼女のやる気が上がり、生産性が上がればそれによって巡り巡って私の元に帰ってくるのだからいいのだ。いいのだが、そうだと自分に言い聞かせなければならないほどダメージを食らっているのもまた事実だ。
今日の夜は、立ち食い蕎麦だな。
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