第83話 先輩の基準


「先輩、彼がとうとうあの研究所に到着しました!」


「な、なにぃ!? 彼は、彼は上手く着地できたか?」


「……っ!? いえ、着地できておりません!」


「よしっ!」


 私は小さくガッツポーズをしてしまった。


「いつも私たちを困らせる彼が着地に失敗するというのは何故かスカッとするな」


「そうですね! って、そんなこと言ってる場合じゃないでしょう! 彼が研究所に着いたんですよ!? いよいよ本格的に悪魔狩りが始まっちゃうんですよ!?」


「まあ、遅かれ早かれそうなる事は決まっていただろう。そんなに騒ぎ立てても仕方あるまい」


「そうですけどー……先輩って最近なんか、諦観というか、彼に対して諦め始めてますよね? 運営の長である先輩がそんな態度でいいんですか?」


「良い」


 別にいいんだ。人生諦めが肝心と言うだろう? 確かに私も若ければ彼女の如く騒ぐ気力と気概があったかもしれない。しかし、もう私は少なからず歳を取っている。人間は歳を取れば取るほど安定を目指したくなる生き物なんだよ。


「なに先輩、もう歳だから、みたいな顔してるんですか? 言ってもまだ三十代ですよね? 歳とか言うにはまだ早くないですか?」


「まあ、三十代と言っても後半だからね。もう、歳だよ」


「そうですか、まあ、私は諦めませんよ! なんか負けた感じで嫌ですからね!」


 彼女もそのうち人生は勝ち負けじゃないってことに気づくだろう。


 まあ、それに若い内は若い内にしかできないことをやるチャンスだからな。私は今からスポーツとか始められる気もしないしな。


「彼はこの研究室で、悪魔の爵位について知り、悪魔へのちゃんとした抵抗方法を知り、そしてお爺さんからは悪魔の情報すら貰うんですよ? 割と最終コンテンツの悪魔がこの段階で淘汰されたら、流石に先輩でも笑えないでしょう?」


「うっ……」


 確かにそうだ。騎士爵、準男爵あたりはいくら死んでもらって構わないが、そうだな、、侯爵辺りからは流石に乱殺するのはやめて欲しいな。数に結構限りがあるし、その分の経験値が彼一人に集約されてしまうとなると、更に差が広がってしまう。これは何か対抗策を考えないと……


「そうだ、爺さんの情報収集プログラムを少し改変しよう。今まではそのプレイヤーのレベルに合わせて悪魔の情報を提供するといった形だったが、これからは一つずつ爵位が上がっていくよう情報を出させるんだ。そうすれば上級爵位の悪魔と戦いやすくなってしまうが、乱獲は防ぐことができるだろう」


「きゅ、急に真面目になるんですんねぇ。どの基準でそうなるのかイマイチわからないですが対応策がいいので何も言えないじゃないですか……」


 流石に彼が勝手に強くなるのは仕方がないが、彼が強くなるのを防ぐ、未然に予防することが可能であればそりゃ遠慮なくさせてもらう。彼の一強というのは見ているこちら側もつまらなくなりそうだからな。


「はぁ、仕事した!」


「はぁ、じゃないですよ! 今から作業するのは私たちなんですから!」

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