第73話 イチゴのやらかし


 彼に近づく人影、そしてそれに対して爆砕で返した彼。一見ると、どちらが善か悪かと論じ難いのだが、よく考察してみると、そもそもなぜその人影はその場にいて、彼に近づいたのだろうか。


 この世界はMMOであるため、ある程度この世界特有のマナーのようなものがある。今回は確実にそれらに抵触していないだろうか? しているよな? 尾行して近づいて行って、誤認キルされた。


「あ、先輩。さっきの人がまた来ました。どうやらそのプレイヤーは女性のようですね、って、先輩のお気に入りの子じゃないですか! あの、魔法使いの女の子ですよ。もーう、先輩何してくれてるんですかー、ちゃんと躾をしてくださいよー」


 後輩は、そのプレイヤーが私の観察対象であることを思い出した途端、水を得た魚のように饒舌になった。イベントの時もそうだったが、本当にどうしたのだろうか。


 これだけ人を観察しているのにもかかわらず、身近にいる彼女の心境は相変わらず一切分からないな。


「ただの観察対象に躾をする研究者なんていない。それよりも二人で何を話しているんだ?」


「はいはい、えーっと、え? はい? どうやら、この子殺されたことを言いがかりにして、彼から彼の強さの秘訣を聞き出そうとしてますよ!? 先輩! これはいよいよ躾の問題じゃないですか?」


 躾の問題? って、いや別に俺がしなければならないとは後輩も言ってなかったな。ここで俺が「いや、俺はあくまで観察者だ」、みたいに返すと、隙を見せることになる。「別に先輩のこと言ってませんよ?」とか言われそうだ。ここは普通に返そう。


「確かにそうだな、この子を教育した人に難があったのかもしれないな」


「え、何言ってるんですか? 先輩のせいじゃないですかー、それに人のせいにするのはよくないですよ。そんなことをしているといつまでも成長できませんよー」


 本当に彼女は何を言っているのだろうか。私をいじりたくて確実におかしな方向に進んでないか? まあいい。一旦この話題からは離れよう。


「それで結局どうなったんだ?」


「んー、なんだかおかしな展開になりましたね。彼には加害者、彼女には被害者の称号がついて、彼は彼女に死ぬことについて教えたようです。

 確かに間違いではありませんし、詳しく知っている私たちからすれば一番手っ取り早いですが、彼女からすると無下に扱われるどころか、からかわれていると感じていそうですね。なんだか、変な終わり方を迎えましたね」


 尾行をして殺された少女は彼に強さの秘訣を聞き、殺してしまった彼はその引目から遂に死ぬことを教えた。しかし、それを素直に信じて行動することは厳しいだろうな。


 なんせ、普通の人間がたとえ仮想世界と言っても、死にまくるなんて芸当ほとんど不可能だからな。


 彼が異常なんだよ、彼が。


 彼の精神は本当にどうなっているんだろうか? 常人では考えられないほどの死亡量であるのに、観察している範囲でそれ以外の場合では至って普通なのだ。


 脳波の観点から見ても何も問題がなく、謎は深まるばかりだ。







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「ほしがほしい、です」


「先輩、何言ってるんですか? クソ寒いですよ??」

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