第72話 腑抜け顔に緊急事態


「先輩! これは大変ですよ! まさか、まさかの事態が発生しました!」


 はあ、今日も元気だなあ。若いっていうのはこれほどまでに素晴らしいことなのか。私も歳を感じさせられるな。


「なんですか、その顔は先輩! 腑抜けてるじゃないですか! とっても大変な事態が起きてるんですよ! わかってるんですか? はあ、どうやら緊張感が足りないみたいですね。わかりますよ、そりゃ、エクスカリバーなんて持ってたら、


 ガタッ!


「どうした! 何があった!?」


 私は勢いよく椅子から立ち上がり、事態の内容を聞いた。……うん、年下の後輩の女の子に良いように弄ばれるとは……まあ、これも身から出たサビだから何もいえないんだがな。仕方がない。


「ふふふっ、そうですよね? 気になりますよね? もちろん彼に関することなんですが、とうとう彼が他のプレイヤーと接触しちゃったのです! しかも最悪な形で!」


「な、なんだと!?」


 今のは普通に素で聞いてしまった。しかしそれはマズい。彼は他のプレイヤーと接触をしないから大丈夫なのであって、もし、他の人と関わることになったら、彼の情報は瞬く間に拡散されてしまい、このゲームのバランスが崩壊してしまう。


 ただでさえ、一人の青年にこの世界を超特急で攻略されかねないというのに、それが複数人、いや大多数を占めるようになれば、この世界はもう終わりだ。


「あぁ、もうこの世界も終わりか……ならば最終手段、アルマゲドンを起動するか……」


「ちょ、先輩何言ってるんですか? 大丈夫ですか? そんな状態でも厨二発揮できるなんてさすがですね! それにまだまだ世界の終わりではないですよ、最悪というのは、また別の意味ですので」


 厨二病ではないのだがな。まあ、いい。それよりも、最悪というのがまた別の意味? どういうことだ、最悪とは最も悪いとかくのだぞ? そんなことくらい分かっていると思っていたのだが……


「最悪って、最も悪いって書くことくらいは知ってますよ? ただの表現ですよ、それに状況を説明すればわかると思いますよ」


 ふむ、聞いてみようじゃないか。


「それは彼が重圧無効を手にした後のお話です。彼はそのまま次の街に向かおうとしているのか、遂に火山の辺りまで来ていました。それは悪魔と応戦した場所ですね。そこで彼はある気配を感じ取りました。

 彼はイベント以外ではモンスターとのみ戦い、常に一人で行動してきました。だから、身の回りにある気配は全てモンスター、つまり敵と認識したようですね。彼に近づいていったプレイヤーが爆炎魔法で一瞬にして消炭にされちゃいました」


 な、何? いろいろと突っ込みたいところがあるのだが、まず一つ言わせてくれ。


 なぜそのプレイヤーは、彼に近づいたのだ??


 いや、そもそも何故、そこにいたんだ?

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