第67話 聖剣


 ガタッ!


「先輩! 彼がもう一つのエクストラスキル、『仙人に至る道』を開始しました!」


 ちょっと今日は体が重いし、眠いからまた今度じゃダメかな? もう脳になにも情報をいれたくないんだ。ああ、もうダメだ、意識が朦朧としてきた。私はもうこの睡魔には抗えないようだ。すまない、後は頼んだ。



❇︎



「はっ!」


 目を開くとそこには真っ青な空が広がっていた。雲ひとつない快晴だ。どうやら俺は地面に仰向けになって寝転んでいるようだ。しかも屋外で。なにをしているのだろうか。


 上半身も持ち上げてみると、やはり地面が広がっていた。しかも周りがは木々が生い茂っており、地面も土が広がっている。どうやらここは森の中みたいだな。


 それなら何故私が目を開けたときに青空が広がっていたのだろうか。


 その疑問はすぐに解消された。私の前方に木が倒れていたのだ。恐らくギャップと言われる現象だろう。寿命を迎えた木が倒れて空が見えるようになったのだろう。


 それを示すかのように、日光が当たっている私のところだけが足の短い草が生えている。まるで私が寝転がってもゴワゴワしないように出迎えてくれたみたいだな。


 ここで私は一つの結論を出した。どうやらここは異世界だということだ。死んだ覚えのない私が、見知らぬ森に歓迎されるように寝転がっていたのだ。これはもう異世界転移しか考えられない。


「ふふふっ」


 どうやらこの私にもこのチャンスが巡ってくるとはな。ここから私の新たなスタートの幕開けということだな。私も良い歳だが久しぶりにワクワクしているな。楽しみでしょうがない。これから待ち受けている、困難、それを乗り越えた先に掴むことのできる栄光。


 全てが私を待っているのだ。行こう、我が第二の人生を。


「ん?」


 何か忘れている気がするのだが……いや、流石に気のせいだろう。異世界に来ているのだ。忘れ物などありはしないし、あったとしても関係のないことだ!


 ガサガサッ


 なっ! 敵襲か? ここでついに私の初戦闘ということだな。


「いでよ! 我がエクスカリバー!」


 私の手には聖剣、エクスカリバーが握られている。ふふっ、私の相棒も健在だったとはね。こいつがいれば百人力だ! くらえ!


 ズキン!


「うっ!」


 胸が、胸が痛い。何かに締め付けられているような、心臓を人質にとられているような、そんな痛みが私を襲った。


「ーんぱい、せーんぱい」


 なんだこの声は、悪魔の囁き声が聞こえてくる。私は、私はこの声を聞いてはいけない! 


 体が本能的に嫌がっていた。何処か聞いたことのあるような、懐かしくもあり恐ろしい声だ。何故か拒絶反応が止まらない。


「せーんぱいっ、せーんぱい! せーんーぱーいーー!!」


 どんどん声が近づいてくる。やめろ、やめろ! 私はまだ死にたくない!!


❇︎


「はっ!?」


「どうしたんですか、先輩。悪夢でも観てたんですか? 何回呼びかけても返事ないから見に来たら、小声でエクスカリバーって言ってましたし、思わず笑っちゃいましたよ。何と戦ってたんですか?」


 お前の声だよ。とは死んでも言えない。あと、敵はただの兎でそいつにエクスカリバーを使おうとしてたことも言えない。


 ってか、エクスカリバー聴かれてたのか……


 もう帰ろ。

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