第65話 本当の悪魔


「勝っ、た……?」


 最初は悪魔が必ず勝つのだと思っていた、この戦いも終わってみれば終始彼のペースだった。悪魔に勝てる道理はなかったのだろう。私も随分と検討外れなことを言っていたものだ。未熟者すぎて笑えるな。


 まあ、未熟者は自分が未熟であることをしらないからな。無知の知として、これからまた頑張っていくしかない。


 この息を飲むような戦いは本当に素晴らしかった。これを見れただけでもかなりの価値があったように思えるほどだ。そして、感動というものは他者と共有したときに初めて更に前へと昇華される。


 そう思い、後輩の方へと向き直ったのだが、どうやら後輩の様子がおかしかった。


 肩を震わせ、過呼吸までは行かずともかなり荒い呼吸、目は虚になっており、どこか焦点があっていない。どうしたのだろうか、これほどまでに感化されたというのだろうか。これは感動の共有のしがいがあるな。


「なあ、こn


「っぱい……先輩、こ、これ…………」


 彼女がひどく怯えた様子で指さしたのは彼のログだった。


❇︎


ーーースキル【怒髪衝天】を獲得しました。


「【バーサーク】、【逆鱗】は【怒髪衝天】に統合されます」


ーーー称号悪魔を見し者

   称号悪魔の討伐者を獲得しまた。


「エクストラクエスト『悪魔への挑戦』が開始されます」


「SPが500ポイントあります。《修羅の道Ⅲ》を歩みますか?」


❇︎


 そこに書いてあった情報はまさしく恐怖に値するものだった。多くのことが記載されているが、そのどれもが巨大パンチとなって私たちにダメージを与えてくるのだ。


 一つずつ解決していこう。まず、スキル怒髪衝天だ。このスキルはバーサークと逆鱗が元になっていることからもわかるように、彼があの戦いで見せたような状態になれるということだ。


 しかし、ここで一つ勘違いをしてはいけないことが、バーサークと逆鱗が統合されているからと言って、その二つを同時に発動した状態になるわけではないのだ。


 統合はあくまで統合、しかも、その二つのスキルが怒髪衝天に統合されているのだ。つまり、何が言いたいかというと、このスキルは二つのスキルの同時発動よりも強いということだ。


 ただでさえ悪魔を倒せるだけの力を手にれることができるスキルであったのに、それを軽く凌駕するスキルとは一体どういうことなんだ? しかも見た目の通りこのスキルは四字熟語である。このゲームでは四字熟語のスキルが基本的に強いとされているから、このスキルの恐ろしさが窺えるというものだろう。


 おかしい、おかしいぞ。先ほど悪魔は彼の手によって倒されたはずであるのに、何故か私の目には悪魔が見えているのだが。


 いかんいかん、少し熱くなりすぎたようだ。だが、それほどまでに脅威なのだ、このスキルは。


 そして、最も恐ろしいことが、これが一連のログの冒頭部分でなおかつ、一番軽そうだ、ということだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る