第58話 択と自由
電話は商談先からの電話だった。別に彼ならギロチンカッターで相手を瞬殺するくらいのことはするだろうと、もうプレイヤー達が慣れているとでもいうのだろうか。
いや、流石にないな。今のはチートだろうと思うよりは、自分らが知らない何らかのスキルで倒したのだと、理解したのだろう。まあ、実際その通りだし、それが何だと聞くのはプライバシーの観点からみて答えを得られないというのも分かっていたのだろう。
プレイヤー達のリテラシーが高いことはとてもいい。まあ、このゲームは月額制であるから、ある程度リテラシーのある層しか参加していないというのもあるかもしれないな。
リテラシー、という概念は非常に難しい。もしかしたら、民度、と置き換えられる時もあるだろうが、そのいずれにせよ難しいことには変わりない。
たった一人の存在で大きく評価が下がることは容易にあれど、たった一人の存在で上がることは滅多にないからだ。それゆえ、意図的に上げることも困難である。豊かで、実りのある平和的なコミュニティを作りあげることはとても難しいのだ。
面と向かって直接会っていても、その人の行動というのは変え難いのに、顔も知らない人々の言動を変えるのなんて到底不可能なのだ。しかもそれが不特定多数となるといよいと手がつけられない。
そこで必要なのが、リテラシーや民度を上げようと努力することではなく、いかにそういったものが高い人々のみを集められるか、ということになる。あげることが難しいなら高い人々を集めてしまえ、という理論だな。
まあ、罰則等で縛ることもできるがそれはあまり建設的ではない。人は自由であることを好むからだ。たとえそれが籠の中の鳥であったとしてもだ。その当人がどう感じているかが重要なのだ。
そのため、自由をいかに演出することができるかがポイントとなってくる。
では、どうやったらその自由を演出できるのか、という疑問が沸き起こってくるだろう。しかしそれは非常に簡単だ。選択させてあげればいいのだ。選択することで、自らの意思で持って決定していると、錯覚することができるし、現にそうである。
そして、その選択する時こそが、我々がその人に干渉できる唯一の瞬間と言っても過言ではない。何故なら、選択肢というものは我々が提示できるものであるし、その内容すらも自由に改変可能であるからだ。
限られた、しかも我々にとっては全て都合の良い形の選択肢を提示することで、人を自由と感じさせたまま、我々にとっても望ましい方向へ誘導することができる。
だが、これだけは忘れてはいけない。その中に、見えてはいないかもしれないが、常に、何も選択しない、という選択肢が紛れ込んでいるということを。
まあ、我々がこれを活用しているのは値段設定くらいだがな。どの料金プランにしろ、このゲームをプレイしてくれることは我々にとって益をもたらすものであるが、それと同時にその人がこのゲームを購入しない、という択ももちろんあるのだから。
だからこそ、皆に手にとってもらえるような素晴らしいゲームを我々は作る必要があるのだ。
「先輩、先輩、聞こえてますよね、先輩!!」
「ぬわっ、すまんすまん、ぼーっとしてた」
「ぬわっじゃないですよ! 今から彼の決勝戦ですよ? 何ぼーーっとしてるんですか! シャキッとしてくださいよねもーう」
あれ、私は今しがた何を考えていたのだろうか。何故か夢のようにスパッと忘れてしまった。まあ、思い出せないものを考えても無駄だな。今は彼の決勝戦に注目しよう。彼のデビュー戦の最終章だからな。
一体どんな結末を見せてくれるのだろうか。
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