第57話 ガンオアガン


「ゴホンッ」


 お手洗いから帰ってきた後輩はどうやら正気を取り戻したようだ。帰ってきて微妙な雰囲気になるくらいなら最初からやめておいて欲しかったのだが、そういうものではないのか? 


 まあいいだろう。他人、しかも女性の心となるといよいよ分からないからな。考えるだけ無駄だ。次の彼の試合に注目しよう。もうあーだこーだしてるいるうちに彼は三回戦進出しているからな。


 次の対戦相手は……どうやら拳銃使いのようだな。拳銃とはいってもリアルにあるような銃ではなく、ゲームだからこそ存在するファンタジーガンだ。実はこのゲーム内には二種類の銃が存在する。今登場したようなファンタジーガンと、リアルに存在するような本物により近い銃だ。


 銃がメインのゲームでは二種類あるのは当然だし、もちろんその二つにも差はない。ただ、私たちのゲームでは明確な差を設けてある。それはファンタジーガンの方がリアルの銃よりも強いということだ。


 もちろん明確な理由もある。リアルということは現実的、ということであり、つまり、この非現実世界において現実世界を想起させるトリガーとなってしまうのだ。


 このゲームの世界においてはそういった要素をなるべく排除している。その理由には、このゲームをする人には、現実ではなく非現実を味わうためにプレイしている人や、現実からの逃避としてプレイしている人が多くいるからだ。


 それらの是非については今論じるつもりはないが、現にそういった人がいる以上、その方々に合わせた仕様となっている。なんでそっちに合わせるんだよ! と思うガンマニアの人たちもいるかもしれないが、それならば銃世界のゲームに行けば良いのである。


 餅は餅屋、という言葉通りだな。まあ、そんなこと言わずとも私たちのゲームをプレイしているガンマニアの人口と、非現実堪能組と現実逃避組の人口の和を比べると、明らかに後者の方が多い、っていうだけで説明はつくんだがね。


 因みに、リアルの方に寄せている銃は、序盤の弱い武器の方にいくつか混ざっている程度である。であるから、ほとんどの人はファンタジーガンを使っている。中にはガンマニアというより、物好きの人でリアルの銃を頑張って強化して使っている人も一定数いる。


 まあ、それでも必ず限界は来るため、そういった人たちはまた別のオモシロスタイルにコンバートしていくのだ。まあ、他人の楽しみ方は自由であるから思い思いのプレイスタイルを確立していって欲しい。


 ただ、彼みたいなのはやめて頂きたい。せめて私たちを楽しませなくてもいいから、悩ませないで欲しい。これは本当に。


「あっ」


 そんなことを言っている間に彼の試合が終わってしまったじゃないか。どうやら彼が勝ったみたいだが、どうやって銃相手に勝ったのか気になるな。あまり気乗りしないが彼女に気いてみよう。


「彼の三回戦、どうやって決着が付いたんだ?」


「はい、彼はギロチンカッターを使って一瞬で試合を終わらせました」


「え、」


 っていうことは彼は大衆が見ている中であのチートとも言える様な即死スキルを発動したのか? そしてそのまま何事もなかった様に次に試合に行くのか?


 おいおいおいおい、こちらの身にもなってくれよ。絶対に今のは不正じゃないのか、とかいろいろ聞かれるに違いないぞ。どうしてくれるんだよ。個人情報については何も教えられないし、そうなってくるとこっちの印象も悪くなるだろうがよ。


 プルルルルルル


 ほらきた。

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