第49話 着弾


 イベントが始まり、彼が弓使いをものの数分で倒した後、私たちは彼がもう何もせずにこの予選を終えることを願っていた。もちろん、そんなのはただの不可能願望と分かってのことだが、それでも願わずにはいられないのだ。


 なるべく彼には目立たずにこのイベントを終わって欲しいのだ。彼が大衆の目に留まり、その有様が露見してしまうと、ロクなことにはならないだろう。だからこのイベント、いやこのゲームの成功の為にもでいるだけ彼の存在の発覚は遅らせたい。


 時間さえ稼げればまだ言い逃れは楽になる。今の序盤も序盤、さらに彼自身も遅れて始めているという状況では何事も起きて欲しくないのだ。


「先輩! 彼が従魔のスワンプコンドルを召喚しましたよ!」


 いや、私も見ているんだからそれくらいは分かる。だが、声に出したくなる気持ちも分かる。なんせ従魔を持っているプレイヤーなんてほんの一握りしかいないし、何より相当目立つ。


 私たちの願いを嘲笑うかのようなこの彼の行動、まるで気持ちが見透かされているような感覚だな。まあ、そんなことはないだろうが、本当にやめて欲しい。


「あれ? 先輩、意外と彼目立ってませんね……?」


「ん? ほ、本当だ……」


 どうやら従魔とかいう概念があまり浸透していない今では、そもそも上空を警戒するという考えに至らないらしい。そして例え、偶然上を見上げたとしてもそこに見えるのは草原に異常なくらいマッチしている鳥の影だけだ。


 彼の姿は地上からはほとんど見えないため、凝視しないと分からない。つまり移動している分には全くと言っていいほどわからないのだ。それに自動中継カメラも戦闘シーンしか映さないため彼は一切映っていない。これはもしかすると、我々が心配するほどでも無かったのか?


「いや、先輩、今は目立ってないってか見つかってないだけですが、いずれ彼は戦闘の為に地上に降りることになります。その時は否が応でも見つかりますよ」


 そ、そうだよな……今も目立ちたくなくて隠れる為に空にいったというよりも、誰か相手を探す為に上空にいる感じだからな。さっきからプレイヤーを探しているのか周囲をキョロキョロしている。


「ん、彼が止まったぞ」


 正確には従魔のハゲタカが止まったのだが。ってかホバリングみたいなこともできるんだな。それよりも止まったということはとうとうプレイヤーを狩りにいくのだろう。ちょうど真下に先ほどからずっと潜伏しているプレイヤーがいるみたいだしな。


 私だけでなく後輩も、いやかなり多くのチームメンバーが彼の動向に注目していた。彼が地上に降り立ちそのプレイヤーを狩る瞬間を。しかし、


「「「「えっ?」」」」


 彼は飛び降りたのだ、なんの躊躇いもなく。そしてまるで自分がミサイルにでもなったかのように一直線にしたにいるプレイヤーの元に急降下していった。上空から落ちれば彼も危ういと思うかもしれないが、彼は死なない。そして、着陸した。


 ズドーーーン!!


 砂埃が舞い上がった。彼の様子は一切伺えない。


「おい! 彼とそのプレイヤーは今どうなっているんだ!?」


 後輩や解析班に現状の説明を求めた。彼らは私が言う前にすでに作業を開始していた。そして、返ってきた答えは……


「っ……! せ、潜伏していたプレイヤーの頭がなくなっています!!」


 実に恐ろしいものだった。


 どうやらピンポイントで相手の頭の上に着地したようだ。ログを見てみるとスキルの集中も使用している。彼は相手を確実に倒す為にここまでやるとは……


 そこまでしなくても普通にすれば勝てるだろうに……


 この中で一ついいことは一瞬で蹴りがついたため、カメラにも捕らえられておらず、落ちる瞬間も速すぎてほとんど誰にも見られていないことくらいだろう。

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