第47話 不可能願望


「そもそも彼はなぜ、EランクからCランクに上がることができたんだ?」


 Eの次はもちろんDだろう。順当に上がらずに飛び級したとでもいうのか? それでも何故だ? そんな簡単に飛び級ができるものでもないだろう。


「それについて説明させて頂きます。それは彼と受付の人との間にある交渉が行われたのです。それで彼はエンペラーオークを倒したり、ボルテクスバード、あとミミズを倒したりとかなり実績が溜まっており、Dはもちろんのこと、Cランクの手前まで到達していたようなんです」


 ここで注意しないといけないのが、冒険者ギルドと暗殺ギルドの違いについてだ。冒険者ギルドの方は機械的に依頼の量さえこなせば次のランクにいくことができるが、暗殺ギルドは違う。


 暗殺ギルドではより実績が重視される。そのため、どれだけ依頼をこなしてもランクが上がらないこともあれば、彼のようにすぐに上がってしまう、なんてこともあるのだ。良くも悪くも実力主義ということだな。


 まあ、相応の実績を残さなければ上がれないから、彼みたいなことはそうそう起きない。なんせ、格上を倒すことは相当きついことだからな。そんなポンポンたおされても困る。彼が異常なのだ。


「それで何をきっかけにランクアップしたのだ?」


「双頭白虎です」


「双頭白虎!?」


 またの名をホワイトツヴァイタイガーという。その名の通り二つ首で顔が二つあり、知能も非常に高く、凶暴で人を喰らう、なかなか恐ろしいモンスターだ。


 更にもう一つ特徴があるのだが、それはスキル【貫通】を使ってくる、というものだ。


 そう、この虎は彼の天敵と言えるのだ。なんせ彼は多くの無効スキルを保持しているし、称号の恩恵を多く受けている。そんな彼のスキル、称号を無視してくるのだ。かなり難敵となり得るはずだ。


「彼は一体どうやって双頭白虎を倒したのだ?」


「先輩は少し勘違いしているようですが、別に貫通のスキルは常時発動しているわけではありません。いや、これだと少し語弊がありますね。貫通スキルは攻撃時にのみ発動するのです。つまり、彼のステータスは維持されたままですし、自動回復も然りです。それで攻撃を避けつつ、新たに仕入れた武器で応戦していましたよ。あの武器がやはり強かったですねー」


 な、なるほど。確かに貫通は攻撃時にのみ発動であるため、攻撃を食らわなければいいだけ、という話なのか。それがどれほど実現が厳しいかを度外視しているが、彼ならなんら疑問もない。


 彼の異常性に感覚が麻痺しているような気もするが、もう半分諦めもある。私たちにできることは限られているのだ、どうすれば良いのか分からない。唯一できることは観察し続けて、被害を抑え、再発を防ぐことに努めることくらいだろう。


 あと、もう一つできることといえば彼がイベントまでになるべく緩やかに強くなることを願うことくらいだろう。なるべく誰の意識も留まらずに終わって欲しいものだ。


 まあ、無理だろうがな。

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