第45話 武者震い
彼がとうとう武器を手にしてしまった。
ゲームの世界に生き、戦闘を生業にしているプレイヤーであるならば、武器の一つや二つ持っていて何がおかしい、と思うかもしれない。むしろ今まで武器を持っていなかった彼の存在の方が特殊なのだろう。
だが、特殊なのは何も武器を持っていなかったからだけではない。むしろそれは理由としては弱い方だ。特異な点が多々あるのに、一つだけでは彼の特殊性とは大きくかけ離れている。正しくこれこそが彼の特異性ともいえるかもしれないが。
今回、彼が武器を持った、という事実は私に衝撃を与えるのには十分すぎる情報だった。今まで武器を持たず素手で強力なモンスター、それこそリヴァイアサンから始まり、エンペラーオークなどを打ち滅ぼしてきた。そして、拳と武器では決定的に攻撃力が違う。
加算される数値が違うのだ。かたやゼロとかたや三桁以上という大きな差だ。彼は素手でもモンスターを倒せるというのにも関わらずさらに攻撃力の面で大幅に強化されたのだ。
確かに立ち回り等の武器があることそのものにデメリットが付随してくるかもしれない。しかしそれを補って余りある高火力を彼は手に入れた。そして火力という概念はことゲームにおいては絶対的な力になりうるのだ。足りなければ絶対に勝つことはできず、それがあって初めてスタートラインに立てるようなものなのだ。
そんな武器という、多くの人がスタートラインに立つために持つものを、もう既にスタートラインに、いやもう何歩か先に立っている人に持たせたらどうなるかは火を見るよりも明らかだろう。さらにハンデ、いや逆ハンデが大きくなってしまうのだ。
しかも彼は今まで火力を補ってきたスキルである、蓮撃を引き続き使えるように、しっかりと両手剣にしている。多少連続攻撃数は減るかもしれないが、その分一撃一撃の重みが底上げされているため、結果的に見ると以前と変わらないかそれ以上の火力を出せるだろう。
それに相手の強さにもよるがそこまでの蓮撃を必要としない相手であれば剣の方が速く処理することが可能であるため、全体的な効率もグッと上がると思われる。彼は運や偶然を味方につけることも非常にうまいが、やはりこういう細かなとこまでしっかりと考え抜き一つひとつの選択をしている。
人事を尽くして天命を待つ、これが彼ほど似合う人は今のところいないな。彼のしっかりとした仮説と検証に裏打ちされて自然と運が引き寄せられているのだ。
それぞれの武器についても詳しく見ていこう。先ずは一つ目、帝王の化身だ。これは彼が左腕に装備しているものだ。効果は自分よりもレベルが低い相手との戦闘時にステータスが上がるというものだ。しかし、彼はこれまた称号の効果で自分よりもレベルが高いモンスターとしか遭遇しなくなっているため、彼にはミスマッチな効果とも終える。
だが、レベルが彼よりも低くても、彼を見て逃げ出さない生き物もいる。それがプレイヤーだ。つまり彼は対人戦には有利な状況を作り出しているということだ。イベントが近づいた中で、こんな行動をするなんて、やはり彼の計算と仲間内で何かあったのかと過った。しかし、今のところいい感じらしいと思うだけで一応毎日は頑張ってこれた。
そしてもう一振りは海龍の怒髪だ。これは彼の右腕に装備しているもので、効果は逆鱗、というスキルを使えるようになるというものだ。逆鱗は攻撃力、素早さがかなり上昇するが、自我が暴走し、破壊衝動がとめどめもなく沸き起こってくるというものだ。これを使えばどんなに優しい人でもブチギレることができるようになる。別になって欲しくはないが。
エンペラーオークとリヴァイアサンの素材をふんだんに使った、もはや芸術的な作品とも呼べる逸品。これを使って彼は一体どれほどの美しい血の花火を打ち上げてくれるのだろうか。
そんな彼の姿を想像した時、私に六分の好奇心と四分の恐怖心が同時の私の心を襲った。
そして思わず、ブルッ、っと武者震いをするのであった。
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