第44話 彼女


「っぱい! せん……先輩!!」


「はっ!」


「先輩! やっと起きましたね! 仕事中に寝るってどういう了見なんですか! こっちは忙しく働いてるっていうのに、きついならちゃんと休んで家でしっかり寝てください!」


「おっと、すまない。気づかぬうちに夢の世界へと誘われていたようだ。私もまだまだ修行が足りないようだな」


「何、茶化して誤魔化そうとしてるんですか! 良い大人が厨二病全開にしないでまともに働いて下さい! そんな無駄口叩いておいて、もう今更体調不良だったとか言わせませんからね」


 これはこれは冗談も通じないとは彼女も相当忙しかったようだな。まあ、実際仕事内容が違うため一概に私が悪ともいえないはずだがそれでも当たりたくなるほどの忙しさなのだろう。


 私はどちらかというと、ゲームの製作よりも対外的な仕事が多い。国や企業との許可取りや資金調達など、交渉が私のメインの仕事である。まあ、ゲームの製作にもしっかり関わっているがあえてグループ分けをすると、って感じだ。


 しかしその一方で、彼女は生粋のゲームクリエイターだ。いわゆる天才肌で、努力も凄いが才能も恐ろしい。その一端としてSSZSが挙げられるが、それだけでなく、細かなところでも彼女の一手間が輝いている。


 例えば、ゲーム、特にRPGでは欠かせない回復薬、ポーションがあるだろう。それは普通、飲んだり体に振りかけることで効果を発揮するが、その残り物である空のビンについて疑問思ったことがあるだろうか。


 普通の人はまずそこで疑問に思うことが無いだろう。そういうもんだと無意識で受け入れてしまう。まあ、中にはこのビンはどこから出てきてどこに消えていくのか疑問に思った人もいるかもしれない。ただ、それでもその疑問を受けて何か行動を起こす人は少ないだろう。


 だが行動を起こした人が目の前にいるのだ。彼女はその空き瓶に注目した。まず、そもそもその瓶はどこからやって来ているのかという疑問なんだが、回復薬を販売するNPCはガラス屋からその瓶を仕入れている。そしてガラス屋は現実と全く同じ製法でガラスを作っている。つまり、回復薬を売り続けていると、いつか世界の資源が枯渇してしまうことに彼女は気が付いたのだ。


 そこで後輩がとった行動とは、まず空き瓶というアイテム項目を製作した。それによってそれを持っていくことで通常よりも安く回復薬を手に入れることができるシステムを作った。他にも空き瓶を沢山集めてガラス屋に持っていくことでお礼に何かもらうこともできる。ただ、そのガラス屋は第七の街にあるためまだまだ先のお話になるがな。


 だがこれはおまけでしかない、命は別にある。そもそも一日に何本も消費するであろう空き瓶をどれくらいの人が所持しているだろうか。例えアイテムボックスに余裕があっても大抵の人は「捨てる」を選択してしまうのではないだろうか。


 そう、だからこれらは役には立つが根本的な解決にはなっていないのだ。


 そこで彼女は、「捨てる」という行為について考察を始めた。今までの多くのゲームでは基本的に捨てた場合完全に消去されてしまうだろう。つまりゲームの中で電子情報ではあるものの、大量生産、大量消費が行われていたのだ。


 彼女はこれに気づき、驚愕した。いくら小さなこととはいえ、作っては消し、作っては消し、を繰り返しているとサーバーに負担がかかるし、それもチリツモである。


 そこで彼女は「捨てる」が行われたらその物質を消すのではなく、一旦別の場所にプールし、そこで完全に分解し再び自然界にもどすというシステムを構築したのだ。


 それを彼女から言われた時は大層驚いたものだ。革新的すぎたからだ。とても大変だったがそれをすることでサーバーへの負荷が減り、更にゲームの世界が持続可能な世界になり、かなり独立した世界に生まれ変わったのだ。


 そのシステムを導入する時は仕事量も増え、不満をいう人も多かったが、完成した今彼女に文句を言う人はおらず尊敬の眼差しで見られるようになっていた。


 回復ポーションでここまでするのが彼女なのだ。だからこそこのチームに必要不可欠な人物だし、私も一目おいている。そんな彼女の


「先輩っ! なに、ボーーっとしてるんですか! は、た、ら、い、て、く、だ、さ、いーーー!!」


 よし、今日はもう帰ろう。

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