第43話 おさらい


 このゲームにはスキルをお金で買うことのできる、スキル販売所なるものが存在する。それはプレイヤーにスキルや称号を与えてくれるSSZSとは完全に別個のもので、我々スタッフが全て一から作り上げたものがその棚に並んでいる。


 そのため、スキル販売所に売られているスキルは一部のスタッフがノリで作ったスキルを除いては全て把握している。もちろん、そのスキルの効果までもだ。つまり、今回彼が隠れスキル販売所で購入したスキルである、乾坤一擲についても同様に知っているのだ。


 ここでスキル、乾坤一擲について説明をしよう。この効果を理解していなければ話についていけなくなってしまうからな。


 乾坤一擲の効果はその四字熟語の意味の通り、自分の全てを捧げて一撃を放つ、という技になる。このゲームの中の話でいうならば自分のHPを1だけ残して全てを捧げるのだ。その代わりに攻撃力は破格の五倍になる。どんなバフスキルでも三倍が限界だ。乾坤一擲のように何かを代償にしても四倍に至るかどうかだろう。


 そう、このスキルは異常なのだ。代償からその恩恵までがぶっ飛び過ぎている。しかも、そのハイリスクな攻撃もトドメに使えば殆どノーリスクで、パーティやレイドを組めば普通の戦闘中でもリスクがかなり低下する。


 複雑な条件など無く、自分のHPという極めて単純明快で誰もが行使可能な条件で、ここまで強力というのも恐ろしいのだ。


 そもそも何故このスキルを作成したのかという話をしよう。まず隠れエリアの販売所の話になるが、そこが発見されるのは多くのプレイヤーが第五の街以降に到達した頃を想定しており、そこまで来るとなかなか倒すことの難しいレイドボス等が多く出現することになる。我々の予想ではそこでかなり行き詰まると予想し、それの解決策としてこの店を用意していたのだ。


 そう、ようやくトッププレイヤーが第五の街にチラホラ到達した程度である今、この店が見つかり、ましてやスキルまで購入されるとは誰も予想だにしていなかったのだ。


 このスキルはシンプルで大きすぎる代償のせいでとても使い辛くはなっているが、逆に言えば使うことは誰であっても容易いということなのだ。そのため、トッププレイヤーもクソもないのだ。ゲームを始めたての彼でも難なく発動できる。



 ここで一つ、彼の特異性について思い出して欲しい。



 彼の特異性と言われて思いつくことは山ほどあるが、ここではその中の一つである、彼の不死性を取り上げよう。


 彼は自分の体力が満タン時に自分のHPの総量以上のダメージを食らうことでHPを1だけ残して耐えることができる。彼のHPは総量10しかないため、ほぼ全ての攻撃にたいして生き残ることができる。言い換えるならば死んでしまう攻撃に対して死ねなくなるため、彼が一撃で死ぬことはなくなったのだ。


 そして、まだ終わりではない。彼の不死性を支えるもう一つの矢である、HP自動回復だ。これは二秒間に一度HPを微回復するというものだが、彼の称号や修羅の道の効果によって、称号とスキルの効果が底上げされているのだ。そのため、なんと一度の自動回復で彼のHPを全回復してしまうのだ。


 これで彼の不死性についてのおさらいが済んだと思うが、これが前置きである。察しが良い人はもう既に理解しているとは思うが一応私の口から説明させてもらおう。


 何故、乾坤一擲の話から彼の不死性へと話が移行したのか、それは乾坤一擲の条件がHPに関するもので、彼は不死性を備えているのだ。


 そう、つまり彼はハイリスクハイリターンの超強力なスキルを殆どノーリスクで放つことができてしまうのだ。


 不幸中の幸いというべきか、少しだけマシなことが乾坤一擲は一日に一度しか使用できないということだろうか。流石にこれを何度も撃たれてはゲームバランスが確実に崩壊してしまう。


 いや、それでもぶっ壊れすぎるだろう……

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