第41話 地味な姑息な手段
「イベント、ですか? イベントの開催はもう少し先ではありませんか? つい最近第二回イベントが終わったばかりですよ?」
「いや、だからこそなんだ。まだ時間があるからこそそれに先んじて対策を打つべきなのだ。正直にいうと、彼が優勝するのはまず間違いないだろう。それはもうほぼ変えようのない事実だからいいんだが、それを受けて周りのプレイヤーがどう思うかが重要だ。
最初我々がそうだったように、不正やチートを疑われるかもしれない。それを未然に防ぐ、とまではいかないかもしれないがある程度対応はできるように準備はできるはずだ。他のプレイヤーの意識を他に向けるとか、もう対応マニュアルを作成しておくとかだな。取り敢えず問題が発生することは確定しているようなものなんだ。それをいかに対処していくかについて話し合おうじゃないか」
「そ、そうですね。先輩がここまで熱意を持って話すなんて珍しいですね。やはりそれだけ彼の異常すぎる存在は爆弾にもなり得るということでしょう。早速チーム全体で何ができるかを話し合いましょう。
そうですね、では私から提案させていただきます。それは、彼を目立たなくさせることにフォーカスした方法で、イベントに参加する母数を増やす、というものです。先程先輩が言ったように他のプレイヤーの意識を逸らすことができれば良いのですから母体数増やすことで最初の段階から意識を彼に向く確率を下げるのです。
勿論これは完璧な案ではありません。どちらにせよトーナメントで彼は勝ち上がってくるでしょうし、そこで大衆の目に入ることは間違いないので爆弾の爆発を少し遅らせるという気休めにしかなりませんが、実行がしやすいため取り敢えずしてみるのはありかもしれません」
流石だな。私が問題提起してからすぐさま荒削りだが使えそうな案を提案してきた。流石彼女の実力は伊達じゃないな。そして内容に関してだが、普通に良いと思われる。こういった問題が発生した際にベストな選択を取るというのは非常に難易度が高い。それにその解決策がベストかどうかという判断を下すのにも時間がかかってしまう。
それよりかはベターな解決策を即断即決で決めていく方が合理的だ。どうせベストなどないと考えて今自分たちにできる方法を現実的に考えていく。これが社会に出るととても重要なスキルになってくるのだが、彼女はその能力に非常に長けているのだ。なによりレスポンスが速いしそれなりにベターなのだ。これはなかなかできることではない。
なによりリスクがほとんどなく、実行しやすいというのはかなりの利点だ。これを一番初めに提案するというセンスも良い。
「そうだな、その案は採用しよう。新規参入も増えて来ているから当然参加人数も増えるだろうから、グループ分けを増やしてさらにそのグループの中から上位二名をトーナメントに進出させることでかなりの人数を参加させられるはずだ。そうすれば彼に割かれるプレイヤーの意識もある程度は減ってくれるだろう」
「ありがとうございます。ただ、最後の決勝という舞台に彼が立つことでどうしても目立つことになってしまいます。それがほぼ避けられない以上具体的な措置をとるのが難しいように思えますが……」
そうだな彼女の難点は手数が少ないことだろうか、一つの案を挙げてなまじその案の出来がいいために次弾を装填するのを忘れてしまうのだ。まあ、仕方のないことかもしれないが、徐々に直していきたいと思う。
「いや、他にもまだまだ手はあるはずだ。今回は何か画期的な方法で問題を解決する、という方向ではなく、どちらかというと地味だが確実に少しは効果がありそうな手段をいくつも使うことで問題の発覚と被害を最小限に抑えるのだ。完全に爆弾解除をするのは難しい、というか彼が優勝すること=爆発だから避けられないと見ていいだろう。その上でどうするかだ。
そうだな、例えばイベント前スレで優勝者予想が必ず行われると思うがそれで彼の名を出させないよう、他のプレイヤーに注意を向けるようにできないだろうか。まあ、端的に言えばサクラだな、決勝にも彼の相手となる人物がいるのだからそちらにフォーカスすることができれば被害はある程度抑えられるかもしれない。
ただ、この手法は明らかにズルイというか、こすい手だからな。なるべく使いたくはないが、背に腹は変えられない、といったところだろうか。やるしかないのだ」
「確かにそれはいい案であると同時にかなりグレーではありますね。私たちも覚悟を決めなければならないということでしょう」
ゴクリ
そうして会議室の明かりは真夜中を照らしていくのであった。
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