第40話 論争と論点


 後輩は言った。彼にも弱点はある、と。


「ほ、本当か? 私からすると彼は完璧とまでは行かずとも死角なんてないと思うのだが……」


「それは彼に対する理解や検証が足りていませんね。確かに彼はステータスも高く、スキルもかなり充実してきており、死角がないように思えるかもしれません。ただ、ステータスと言っても全てというわけではありません。強化されていないものもありますよね? そこが彼の弱点です」


「ん? 強化されていないステータスか? それはHPのことだろう? だが、それは強化されておらず低いままだからこそ奇跡的に噛み合い、ほぼ不死身の体を手に入れられたわけじゃないか」


「確かにHPは強化されておらず、そのおかげで彼は更に強くなっていますが、それだけではありません。まだ残っているステータスがあります、それが弱点ですよ」


 まだ残っているステータスだと? それも強化されていないとなると……そんなものあるか?


「あっ、MPか?」


「そうです、彼はMPが強化されておらず低いままなのです。つまり、どんなに強い魔術を獲得したとしてもそれはまともな武器たりえないのです」


 彼女はそう、ドヤ顔で私に言い放った。


 しかし、その理論には反論できそうだ。


「いや、だが待て。確かに彼はHPと違って自動回復はないが、このゲームではMPは回復速度は遅いものの徐々に回復していく。だからメインにはならないかもしれないが彼の武器の手札の内に入るのは間違いない。更に、MPの場合、魔術発動時も足りない分はHPで補完される。そして、そのHPも即座に消し飛ぶだろう。つまり、彼は圧倒的に少ないMPで魔術を発動し、更に死なずに済むのだ。

 だからこそ、彼の魔術の獲得は他のプレイヤー及び我々の脅威は増したと言えるのだ」


 そう言って俺はドヤ顔をお見舞いしてあげた。


「なっ……!? とでも言うと思いましたか? そんなことは百も承知です。しかし、それでもHP、MPあわせて彼は低いのですから大技を行使することが不可能です。せいぜい使えて蘇生やスケルトンの召喚でしょう」


 おっと、ここで意見の相違が判明したようだ。私はスケルトンの召喚や蘇生だけでも十分な脅威足り得ると判断したのだが、どうやら彼女の意見は異なるものだったらしい。


 まあ、確かにスケルトンを召喚したところで今更彼の強さには影響ないだろうし。蘇生なんてずっとソロの彼には縁の無いものかもしれないな。


 だが、それが彼の弱点かと言われれば違うのだろう。死霊魔術は残念ながら彼とは相性は合わなかったが、別にそれによって彼が弱体化するわけでもない。


 いや、彼女は今回の場合に限らず彼が今後魔法を取得した場合にも恐れる必要はないと言っているのだろう。それならばわかるが、かといって完全に無力になるわけではない。初撃限定だが確実に彼の力になることは間違いない。


「そうか、まあお互い彼が脅威であることに異論はないのだからこれからも注意していこう。

 それよりも更に直近で問題がある。あともう少ししたら第三回イベントが開始するのだ。今までのイベントでは彼はまだ彼もゲームを始めていなかったが、急成長した彼はもう既に他のプレイヤーに引けを取らない程に成長してしまっている。いや、圧倒してしまうほどの強さを持つほどに、と言った方が正確だろうか。

 まだイベントまで時間はあるが、イベントでは全てのプレイヤーの目につくのだ。それが今までとは明らかに異なり、とても大きな問題なのだ。これをどう解決するか、それを話し合わなければならないのだ」

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