第39話 魔術と弱点


 魔術、このゲームにおける魔術とは少し世間一般のものとは異なるかもしれない。例えば魔法との区分だ。普通、魔法と魔術は似た印象を持っている人が多く、沢山のゲームでそれらは大抵どちらかに統一されているだろう。


 中には魔術を魔法の上位互換として定義しているゲームもあるだろう。我々も大まかに言えばその部類に入るのだが、少しだけ経路が違うのだ。


 それは、一人一つまでしか魔術を獲得出来ないということだ。魔法は幾らでも取得可能なのだが、魔術は一つまでなのだ。魔術というものは魔法を極めた先に獲得できるものである。それをポンポンといくつも取得するのは少し我々の考えからずれるためこういう仕様になっている。


 そのため、どの魔術を獲得するかでその人のプレイスタイルや弱点が大きく左右されていくことになるのだ。例えば火炎魔術を獲得すると水に弱くなり木に強くなる。それによって倒すモンスターの種類も立ち回りも変わってくるのだ。


 しかし、魔法を極めた先にあるものとしての魔術だけでなく、それだけで存在する魔術もある。これらは特別な条件を満たした時にのみ獲得可能で、普通の魔術とは一線を画す強さを誇る。例を挙げるとするならば、月光魔術や、鏡魔術等だ。他にも沢山種類は存在する。


 実際は、普通の魔術とそこまで大差があるわけでもなく、熟練度をあげれば全然戦えるのだが、特殊な魔術はそれらに比べて熟練度を上げる時間がどうしても短くなってしまうため、獲得した瞬間からずっと一軍で活躍できる仕様になっているのだ。


 今回はその魔術が問題なのだ。整理する為に先程の後輩の言葉を振り返ろう。


「先輩、先輩! 彼の依頼の目的が分かりました! 彼はなんと、なんと死霊魔術を会得しようとしていたのです!」


 因みに彼はもうすでに死霊魔術を獲得している。彼女は彼が故意的にこの魔術を獲得したと思っているようだが、私はそうではなく彼が試行錯誤した上でたまたま運良く手に入った程度のものだと思う。この取得条件を事前に知ることはほぼ100%不可能だからな。


 まあ、話を戻そう。今回は魔術の説明をして、特殊な条件で取得可能なものの存在も示したが、正しく彼が取得した魔術がそれなのだ。しかも、かなり取得条件が厳しい。


 死霊魔術の取得条件は、死に関する称号を三つ獲得した状態で上位のアンデッドを倒すことだ。まず、死に関する称号を獲得すること自体難しいのだ。称号の獲得方法も知らない状況では獲得しようもないはずなんだがそれを易々と獲得し、そのまま流れでアンデッドを倒している。


 アンデッドも上位でなければならず、そんなポンポンといるわけでもないのに的確にそれがいる洞窟に向かい、倒したのだ。しかも依頼を受けた状態で。


 私は彼に対して、優れた洞察力と推察力と運を併せ持った男と評価しているのだが、その三つの全てを動員しても、この魔術を狙って取得できるとは思えないのだ。だから、彼はおおよその当たりをつけ、こうなればいいなというくらいで行動していたのではなかろうか、と思う。


 それにしても死霊魔術自体もとても強力なのだ。死霊という名前や取得条件からも分かるように死に関してあらゆることができるようになるのだ。アンデッド系を味方にする使役、アンデッド系を呼び出すことのできる召喚、死者を蘇らせる蘇生、魂を縛って攻撃する呪縛、この四つが使用可能であるのだ。


 ただでさえ強かった彼がここまで強力になってしまってはもう他のプレイヤーは誰も太刀打ちできないのではないか? 数の不利もアンデッド達を使えば補えるし、死角がどんどんと埋められていくな。


「なぁ、もう誰も彼を止められないのではないか?」


「はい? そんなことないですよ? 彼にも明確な弱点はありますよ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る