第38話 諦念


「先輩! 今度は彼、とうとう従魔を獲得してしまいました! し、か、も、それは鳥型モンスターで彼に空路という選択肢が生まれてしまったのです!」


 どうしてだろう、何故かとても既視感がある。だが、これをどこかで見たとも思えないし、彼女がわざわざ同じことを二度言うとも考えづらい。ということは私の気のせいなのだろう、勘違いに時間を割くのはもったいないな。


 それよりもなんだって? 彼がとうとう服従を使用して従魔を獲得しただけでなく、それが鳥型のモンスターで空路という選択肢が彼の中に生まれたというわけか……


 彼はとても賢いな。空路は道に縛られることなくどこでも自由に行くことができ更に速度も申し分ない。そして極め付けは乗っているだけでいいという、楽さだ。これほどの良い要素に目をつけ早々と飛行可能なモンスターを従魔に迎え入れるとは本当に頭が切れるようだ。


 もしかして、彼は別にこちら側の情報が漏れているとかではなく、その類稀なる洞察力と推察力で仮説を立て、それを立証するために繰り返し実験を行なっているだけかもしれない。


 仮にそうだとするととても合点がいく。最初から死にまくっていた点やそれによるここまでの急成長っぷり、沢山の隠し要素を見つけているのもそれならば可能性はあるかもしれない。


 なんなら、ゲームが開始してから少し遅れてスタートしたのも最高かつ最前のスタートダッシュを決めるために情報収集をしていたのかもしれないな。


 確かにゲームの最初は浮かれて好きなようにあれこれ進めてしまいがちで、本来ならばそれが望ましいのだが、本気でこのゲームを攻略し一番に立とうと思うと、少しの選択の違いが大きな結果の違いを生む。


 その選択を自分で試行錯誤しながらやるよりは他人のを参考にしつつ、ある程度決めた上で始める方が確かに効率が良いだろう。まあ、それで楽しいかは別だろうがな。


 それで何故このスタイルになったかは分からないが、恐らく誰かの配信やSNSの情報で死にまくったらこんな称号をゲットしてしまった。というようなものを見たのだろう。そして彼はそこに目をつけた。そして、地道にレベルを上げる前に下準備をした方が遥かに効率が良くなることに気づいたのではなかろうか。


 もしかすると、死ねば死ぬほど強くなるあの称号は彼にとっても都合のいい偶然だったのかもしれないな。


 うん、私にしてはなかなか上出来な推理だと思う。早速後輩に伝えに行こう。


「分かりました。では彼はその類稀なる洞察力と推理力で湖底の神殿を見つけ出し、隠れた鍛冶屋を見つけツケで武器の注文をしたのですね。先輩、シャーロックホームズは物語にしかいませんからね、夢を見るのもいいですが、仕事に集中してください。今日は忙しいんですから」


 と、一蹴されてしまった。


 今日は忙しいから彼女も少し気が荒立っているのだろう。私も真面目に仕事を始めるか。


「先輩、先輩! 彼の依頼の目的が分かりました! 彼はなんと、なんと死霊魔術を会得しようとしていたのです!」


「な、なにー!?」


 って、もう仕事はいいのか? 今俺が始めたところなんだぞ? まあ、そっちがいいならいいが、本当自由奔放というかマイペースというか……


 まあ、いいか。 

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