第35話 驚愕の事実


「……先輩、彼が首吊りしてます」


 ん? 首吊り? 首吊りかー、今回はかなり現実的な方法なんだな。せっかくのゲームなんだからもっと華々しく散ればいいのに、首吊りとはまた地味だな。


「首吊りがどうかしたのか? いつも通りの自殺だろう? もうそろそろ彼から離れた方がいいんじゃないか? もう流石に事件も起ききっただろう」


「今回は事件なんでしょうか。事件というよりは、恐怖映像って感じですね。なんと彼が始まりの街のリスポーン地点である、噴水広場で首吊りを行なっているのです。側から見るとただの恐怖映像でしかないのですが、今更始まりの街の広場にいる人なんて殆どいませんし、いたとしても時折びっくりする人がいるくらいで、彼が上手く風景に馴染み過ぎて気づかないか、そういう悪戯として流されるかのどっちかなんですよね、今のところ。この光景が見た目以上に恐ろしいということは私たち以外知ることはないのでしょう」


 な、そういうことか。まさかリスポーン地点で死ぬとはなかなか頭を使ったな。このゲームを作っているときはこんな輩がいるなんて想定もしていなかった。街の中では人を殺すことはできなくなっているが、自分ではダメージを与えられるのだ。なるべくリアルに近づけようとした弊害だな。


 それにしても彼のメンタルは一体どうなっているんだ? 人前で死んでもなにも感じないのか? これほどのメンタルがあれば社会的に成功できそうなものだがな。


「先輩、彼のステータスの上がり幅がおかしいことになってますよ! 広場で死んでリスポーンしてまたすぐに死ぬ。こんな単純作業で彼のステータスがみるみる上がっていってるんですよ? おかしくないですか? 今まで史上、最高効率で強くなっていますよ。これを一般プレイヤーが知ったらどう思うんですかね? あ、」


 確かに、この効率は流石に目を引くものがある。首を吊るのにもそこまで所要時間はいらないからな。恐ろしい速度で成長している。


「ん? どうしたんだ、なにかあったのか?」


「いや、別にたいしたことじゃないんですが、彼がなんとも奇妙な称号を手に入れまして……」


 かなり歯切れが悪くなった後輩、こうなるのはかなり珍しいぞ? 相当対処に困っているとかそういう理由でない限りはこうもならないと思うのだが。


「ん? 珍しいな、何かあったのか? いつも通りチートな称号じゃないのか?」


「それが、いつもとはまた違った毛色のものでして。その名前は死の考察者と死を克服したもの、というのですが、一旦効果はおいといて、取得条件から説明しましょう。

 死の考察者は死について三十分以上考える、とあります。これは恐らく何度も何度も自殺を繰り返すうちに考えたのでしょう。これはいいのです。ですが次が問題なのです。死を克服せし者の取得条件は死に対しての恐怖心がなくなる、というものです。

 つまりこの称号を手にしたということは、彼は今まで死に対して恐怖心を抱いていたということになります。あれだけ死んでいたのに未だ恐怖心を持っていたことに驚くべきか、彼が恐怖心を失ったことでさらに死に続けることができることを恐れればいいのか、その二つの感情が一度にきて戸惑ってました」


 なるほど、確かにこの称号は奇妙に思えるな。まずそもそも死への恐怖心が消えることって可能なのか? SSZSが判定しているのだから間違いはなさそうだが、それでも気になってしまう。


 そして、彼が今まで死に対して怖がっていたという事実、そしてこれからももっと死ぬであろうという推測、これらが一度に押し寄せてくればいかに彼女といえどもショートは免れないかもしれないな。


 ん? 私は大丈夫かって? 私はとうの昔に考えるのを放棄しているよ。

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