第31話 御乱心


「抜け道?」


「そうです。基本的に力量さとはレベル差で判定されるのですが、仮にレベルが相手よりも低い場合でも相手に力を見せつければ服従することが可能なようです。つまり、彼はもう彼より強いモンスターとしか遭遇しなくなりましたが、それでも彼の異常なステータスを用いて服従させることは容易にできるということです」


 なるほど、そういうことか。もともと私の認識では強さを示すためにボコボコするものだと思っていたのだが、逆にそれこそが抜け道だったとはな。彼はレベルが低いのにステータスが高いため、基本的にあらゆる制限から解放されていると言っても過言ではない。制限は基本的にレベルで決められることが多いため、その点で彼はかなり有利と言えるのだ。


 彼は本当になんというか都合がいいよな。あまりにもできすぎている。まるで神が味方にでもついているかのようだ。


「先輩っ! ま、まさかの事態が発生しました! なんと、彼があの隠し鍛冶屋を発見してしまいました! 第五の街到達したプレイヤー向けなんですが、彼が、彼が! 発見してしまいました!」


「何!? あそこの鍛冶屋か? かなり性能が高いのだろう? だがその分値段もかなりいくはずだぞ? どうせ彼には出せるまい、あれだけ死にまくっていてお金があるはずもないだろう」


「い、いや、そのことなんですが……なんと彼、とその職人なんですが何故かツケで取引が成立してしまっていて、彼が一ヶ月後に武器を受け取る手筈になっていたのです! これは一体どういうことなんですか先輩! 現代どころか随分昔からもうお店でツケというシステムは無くなったはずですよね? なんでこのゲームの中でそれが発生しているのですか!? 理解不能ですよ!」


「ツケ?」


 後輩がかなり取り乱している。それもそのはず、ツケという取引方法は随分も前に絶滅したはずだからだ。確かに一時クレジット払いなるものが流行したがすぐに衰え、電子決済に移り、最終的には決済という概念すら取り払われているのだ。棚から商品を持っていくだけ、お店で料理を食べるだけで自動的にお金が引き落とされていく。


 そんな現代社会のゲームの世界でまさかのツケ、正直言ってありえない。どうなっているんだ? 仮にその職人とやらがご老人だとしてもそんな思考が導入されているとは思えない。つまり、誰かが意図的にこの思考を導入したということなんだが、このチームの中で犯人探しをするのもな……


「因みに武器というのはどんな武器なんだ? 製作依頼か購入かでだいぶ値段が変わるとは思うんだが」


「勿論、製作依頼に決まってるじゃないですか! 彼はリヴァイアサンにエンペラーオークの素材を持っているんですよ!? それをふんだんに使って依頼してましたよ、本当にっ! あああーーー!」


 彼女は本当にメンタルケアがいるなこれは。それにしても依頼か、依頼ならば少し値段が安くなるがそれでも高いことには変わりないからな。


「彼はほんっとにおかしいですよ! ぜっったいに何かありますっ! 何かないとこれは説明がつきませんよ! そもそもこれを見つけることすら不可能に近いはずですし、そもそも行こうと思いますか? あり得ませんよ!」


 あぁ、彼女をどこに連れて行こうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る