第29話 心理的、物理的
「先輩! 大変なことが起きてしまいました! 今回もなかなかヘビーですよこれは。彼がなんと、修羅の道IIを歩み始めてしまいました! これは流石に、流石に由々しき事態だと思うのですがどうしましょうか……」
「何? 修羅の道IIだと?」
まさかそれを獲得する者が現れるとは……まだ修羅の道の初期段階は誰か発現するかもしれないという予測はあった。それも、もしかしたら、という程度のものだったがな。
しかし、どんなに頑張ってもそこまでのはずなのだ。それをもし発現してしまっても、それを活かすために経験値を獲得して自分の強化に努めるだろう。誰もその次のステージがあるなんて想像もしないだろう。仮にもしあると想定していても、SPを300貯めるには相当の月日が必要になる。SP100を貯めるのとは比にならないくらいのだ。
何故なら、自分のステータスが低いままにもかかわらず、相手の強さはどんどん上がっていくのだ。多少プレイヤースキルが高い程度では超えられない壁が存在してくるのだ。ダメージが与えられないほどのスペック差が露わになり、たとえ極振りしたとして、他のステータスが貧弱であれば無理があるのだ。
ゴチャゴチャしてきたが、結局何が言いたいかというと、修羅の道IIを歩み始めるのは、心理的にも物理的にも不可能なのだ。まあ、いずれ時間が経てばその限りではなくなるとは思うが、決して、決して今ではないのだ。
その壁をこの男はなんの障害も無いかのようにサラッと超えてしまった。恐ろしい、恐ろしすぎるぞ。SPに依らないステータスの強化がこれほどまでに強いとは……
単発の強化はいくらでもあるのだが、こうも継続的に強化し続けられるというのが特異で強過ぎたのだ。本来ならば死ぬということはかなりのディスアドバンテージのはずなのだが、初手から死にまくった彼はそれすらもない。いや、それがないからこそここまで強くなれたのだ。
彼の何が欠けてもこの強さには至れない。全てを計算で行っていると言われた方がしっくりくるほどの完成度の高さ。しかしこれを計算できるかと言われれば製作者である我々でも不可能としか言わざるを得ないのだ。
だからこそ逆説的に彼の行いの潔白性が保たれるのだが、それでも疑わずにはいられないのだ。分かって欲しい。
いかんいかん、少し熱くなってしまっていたようだな。私達の享楽で作ったはずの称号がここまで大きなことになるとは誰も予想だにしていなかっただろう。今回は大きな転換点になるかもしれないな。
彼の行いはこれまで以上により一層注意していかなければならない。
不幸中の幸いとして一つ挙げるとするのならば、彼がソロでプレイしており誰にも情報が漏れておらず、彼が今のところインターネット上にも公開していないということだろう。
ただ、それも今のところであり、薄氷の上にあることに変わりない。
我々はいつかその情報が公開された時のことを視野に入れながら準備を進めていく必要があるかもしれない。今までとは全く違う環境にするのだ。例えばそう、新大陸とか……
「先輩! 彼がもう一つ大変な称号を獲得していました! それは帝王の討伐者、という称号です……」
うん、今の話は一旦忘れてくれ。とりあえず胃薬を買ってきてから話を聞くことにしよう。
「ふぅ……全くなんなんだよ彼は」
最近肩こりが酷くなってきた気がする。
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