第27話 事件と享楽


 今日はとうとう彼のキングオーク戦だ。彼の今までの準備とキングオークの圧倒的な力、どちらに軍配が上がるのか非常に楽しみである。彼も相当強くなっているとは思うがキングオークも侮れないからな。とてもワクワクさせられる。


「先輩! 大変です! これは事件ですよ!」


 今日だけは絶対に後輩からの呼びかけはないと思っていた。彼は言ってしまえばキングオークと戦うだけだし、それも私が最初から最後まで見届ける予定だ。もし、彼に問題が発生したとしてもそれは私も知ることとなるため、後輩から言われることはないのだ。


 そう、つまり今なお彼をモニターしている私の元に、彼女が連絡に来るということは、その事件は彼とは関係のない事件ということだ。確かに緊急性が高いものかもしれないが、せめてこの戦いだけは見届けさせてほしい。彼が関わらずに緊急なものなんてそうそう無いだろうからだ。


「どうした、今はこの彼の戦いに集中したいのだが。その事件も彼と無関係で緊急でもないものだろう? すまないが、一旦後回しにしてもらってもいいか? 一緒に観戦でもしようじゃないか、今は心を空にして楽しむ時だぞ?」


「先輩……! そ、そんな悠長なことを言っている場合ではありません! 彼にも関係のあることですし、緊急度もかなり高いですよ! なんと言ったって、この戦いに直接影響してくることなんですから!」


「え?」


 彼に関係していて、この事件にも直接影響があって、なおかつ緊急度もかなり高いとは、一体どんな事件なんだ?


「それは本当か!? 一体どんな事件なんだ?」


「本当ですよ! 嘘をつく理由がありませんからね。まあいいです、それでその事件なんですが、なんとこれから戦う予定のキングオークがなんと、エンペラーオークになっているのです!」


「……ん?」


 ちょっと理解が追いついていない。え、キングオークがエンペラーオークになってる? どういうことだ? なんでそんなことが起きているのだ? 今の彼に倒せるはずがないじゃないか。


「ど、どうしてだ?」


「これは私の推測になるのですが、恐らく彼のギルド加入が早すぎたのだと思います。彼がこのタイミングに入っていなかったら、恐らくギルドの精鋭部隊で処理されていたと思いますが、彼がその依頼を受けたときにはまだそのニュースが入ってなかったのです。そのため、受付の人が間違えて受けさせてしまったのではないかと推測しております」


 まさかそんなことが起こっていたとは……


 彼女の考察はかなり精度が高いものだ。あらゆるデータを活用してこの答えを導き出しているため、多少の差異はあるかもしれないが、大まかな流れは大体合っているだろう。だからこそ、この事件の重大さがよりダイレクトに伝わってくる。


 しかし、こうなってしまえば彼に殆ど勝ち目は無くなってくる。彼には本当に申し訳なかったが、運が悪かったと思って諦めてもらうしかないな。まあ、今まで散々スキルや称号を手にしていい思いをしてきただろうから、これでいい具合にトントンくらいにはいくのではないか?


 ということは、彼とキングオークの命を削る死闘ではなく、エンペラーオークによる彼の蹂躙劇が始まるというわけか。


 それはそれで面白そうだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る