第25話 気づかぬファン


「先輩ぃー……もう疲れましたよ、彼は本当になんなんですか? 我々に恨みでもあるんですか!? もう具体的な解決策も無いのに次々と事件を生み出すなんて、酷いです」


 彼女が件の彼のせいで相当参ってるな、また彼がやらかしたのだろう。彼に関してはある程度諦めも必要だ。いちいち反応してたら体が保たない。それでも彼女は性格的に反応せざるを得ないんだろう。気の毒だか私に出来ることは彼女の話を聞くことぐらいだ。


「それで彼はまた何をやらかしたんだ?」


「彼は遂に転落死をしました……」


 転落死か、自殺の中ではメジャーな方か? まあ自殺にメジャーもクソも無いと思うが、毒死や溺死、あと刀による自殺よりかは多いのではなかろうか。まあ、どちらにせよいずれやるだろうとは思っていた。


 しかし、この彼女の反応からするに普通に死んだだけではなかったのだろう。何かあったに違いない、それがどれほどのものなのか……想像を超えてくるのは間違いないのだが、それ以上はもう考えようもないのだ。いくら気構えても仕方ないな。さっさと聞いてしまおう。


「それで彼はどうなってしまったんだい?」


「彼は、彼は四つのスキルを手に入れました。今回は珍しく称号を獲得しなかったのは良かったのですが、その四つのスキルが問題なのです。

 まず、スキルの説明をするために彼がいかにして転落死したのかを説明させて下さい。彼はHPが1残ってしまうのでただ飛び降りるだけでは死ななかったのです。そのため彼はその残りHPを削る為になんと、岩を上空に投擲したのです。それで空中にいる間、もしくは落下した後にその岩に当たることでHPを削りきったのです。

 これがスキルを増やす要因となったのです。岩を上に投げたことで投擲スキルを獲得し、それもかなり大きな岩だったため、筋力増強スキルも手に入れました」


 じょ、情報量が多すぎるな。まあ理解は出来たがそれでも頭の整理が追いつかなさそうだったぞ。しかも、これで出てきたのはまだ二つのスキルだけだ。投擲と筋力増強は我々も良くしっている基本スキルだ。


 彼女がこのスキルで区切ったということはおそらく残りの二つのスキルは我々にも未知で強力なスキル、ということなのだろう。それらが彼女を参らせている原因というわけか。どんなスキルか少しワクワク感すら覚えてしまう。


「それで、残りの二つはどのようなスキルなんだ?」


「残りの二つは打撃無効と空歩というスキルになります。推測は容易にできるかと思いますが、一応説明すると、打撃無効は空中に投げた岩による攻撃で、空歩は恐らく空中にいる時間の総量で獲得したものと思われます」


 お、おう、なかなかヘビーなスキルだな。無効系のスキルはもうお馴染みで慣れてきた気もするが、空歩は意外だし強力だ。恐らく飛ぼうと何かしら努力し続けた人に向けてのスキルだったはずだろうに、まさか自殺しまくった人の元に行くとは空歩側も驚きだろう。


 それにしても彼はなんなんだ? 慣れてきたからスルー出来ているが、こんなハイペースでスキルや称号を手に入れるなんてよくよく考えたら、本当にありえないことなんだからな?


 そりゃ彼女の気も滅入ってしまうだろう。最近の彼の強くなり方は異常すぎる。他のプレイヤーと比べてもトッププレイヤーに肩を並べそうな勢いだ。この調子でどこまで行ってしまうのだろうか。


 だが、一旦キングオークとの戦闘が控えているな。この彼の準備が果たして実るのかどうか。


 キングオークに対して彼はどのように戦うのだろうか、もうワクワクが止まらないぞ。

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