第22話 ゼロと特異性
ふう、それにしても瞑想による餓死なんてどうやったら思い浮かぶのだろうか。普通に生活していてそんなことを考える男の子なんているか? 彼の生活環境は我々の想像を絶するものなのかもしれないな。
それにしてもキングオーク戦を控えているのに躊躇いもなく死ににいけるとは、彼は本当に筋金入りだな。もうもはや、強くなるための最短経路を走っていると言われた方がまだ納得が行く。
それに私はまだその線を疑っていないという訳ではない。可能性が限りなくゼロに近いというだけで、ゼロではないのだ。そう考えると、ゼロって本当に特殊な数字だよな。ゼロに何を掛けても無駄だし、割っても無駄。ましてやゼロであることなんて可能ですらないのだ。
何かを足すことで好きなものになれるし、それを引いたところで意味はない。どんなにものを掛け合わせていても、それが居るだけで全てが霧散してしまう。
ゼロ、彼はゼロなのだろうか。表記の上では一があるがそこに一切手を加えていない。いわば産まれたての状態だ。もし、私がキリスト教信者であれば彼は一番神に近い存在とも言えるだろう。知恵の実を食べる前の清らかな姿……
「先輩、先輩! せーんーぱーいー! ちょっと今回は流石にトリップしすぎです! 一体何を考えてたらそんなに飛ぶんですか?」
おっと、流石に思考が逸れすぎていたな。今は仕事中だ、集中しなければ。
「ごめんごめん、つい癖でね。それよりも何か言おうとしていなかったかい? 急用なんだろう?」
「癖って……まあ、いいです。それよりもそうです、いや急用というより事件と言った方がわかりやすいですかね? 彼がまたやっちゃってます。
今度は彼、何を思ったのか火打ち石を購入して、そのままなんの躊躇いもなく自身の身に火をつけたのです。火ってあらゆる生物が恐れるものなんですよ!? それをなんの抵抗もなく自分につけるなんてあり得ません!
確かに人類は火を操れる唯一に生物ですがそれでも自分に使った人なんかいませんし、仮にいたとしてもその人は死に、遺伝子は淘汰されているはずです! つまり彼は人類史上とてつもなく奇妙なことをしているんです! これは何か対策を講じないと取り返しのつかないことになりますよ!」
後輩が珍しく取り乱している。彼女は確か生物学にも詳しかったはずだ。そのため生物学的観点から見た彼が異常だったのだろう。まあ、わからなくはないが、取り乱しすぎると話が進まなくなるからな。一旦先に進めよう。
「まあ、一理あるな。だが、彼が死んだということは例の如く何かスキルや称号を手にしたんじゃないのか? それを一先ず聞こうじゃないか」
「……はい、分かりました。まず彼はスキルを二つ、称号を一つ獲得しております。スキルは炎熱無効と俊足になります。炎熱無効は読んで字の如く火や熱のダメージを無効にするものです。俊足については我々も関わっているため詳細は省きます。
そして、称号なんですが炎の使い手というものでした。火、ではなく炎となっており、効果が少し心配だったのですが炎によるダメージ補正でした。これが火の使い手でなかった理由はおそらく火打石でダメージを稼いでいたからと思われます」
今回はだいぶマシな方ではあるな。いや、前回が凄すぎただけで今回も十分にすごいな。炎が効かないのも凄いし、俊足も説明は省かれたがとても汎用性が高いスキルだ。ざっくりいうととても足が速くなるスキルだな。
称号に関しては彼がまだ火打石しか炎の手段を持っていないためそこまでの脅威ではないが、いつかそれを手にした時が怖いな。
それにしても彼は着実に強くなっていっているな。死ぬだけでもステータスが上がるのにスキルまで手に入れて、効率良すぎやしないかい?
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