第21話 準備と恐怖と訂正
「せ、先輩! 彼がまたやらかしてくれました……
なんと彼が強くなる為にとった行動とは、今までと変わらず死ぬことでした。それで今回彼が選んだ死に方とは、餓死なのです!」
もしかしたら、死んで強くなるのではないかと思っていただけに流石に今回は驚かない。ただ、餓死で死のうとするのは確かに意外だ。死ぬ方法くらい他にもっとあっただろうに。
それに、ただまあ、死に方が珍しいというだけで特に事件性が見受けられないのだが、何かあったのだろうか。
「先輩! 何ですかその何か問題でもあるのか? っていう顔は! 大アリですよ! 今回も例に漏れず彼は耐性スキル併びに無効化スキルを手に入れたんですが、何のスキルだと思います?」
「耐性スキルか、普通に考えれば餓死によって死んだのだからそれを対策する為に空腹無効とかか?」
「そうです、彼は空腹無効というスキルを獲得しました。このスキル自体も十分強力というか、私達の気持ちに真っ向から立ち向かっているのですが、それが可愛く見えてくるほどのスキルを彼は手に入れてしまったのです」
確かに空腹無効というスキルはこの仮想世界でしか味わうことの出来ない様々な珍味を味わって欲しいという我々の気持ちを蔑ろにしているとも言えるな。しかし、それが可愛く見えるほどの強力なスキルか……
そもそも我々の気持ちなど彼の存在に比べれば、とうの昔に可愛いものに成り果てているだろうし、今更感は拭えない。
「もーだから、私達の気持ちなんてもうとっくに可愛いものに成り下がっている、みたいな顔はやめて下さい!
ゴホンッ、本題に戻ります。彼は餓死をする際にただ何も食べなかっただけでなく、瞑想をしながら死んでいったようです。彼が修行僧であることを意識してかのことかはわかりませんが、この瞑想が大きな変化を生んだのです。
まず彼は瞑想、というスキルを手に入れました。瞑想をしている間MPを回復出来るというものです。これで少し限定的ではありますが、彼はHPとMPの枷から外れたことになります。」
な、なんと、HPとMPの回復手段を彼は自前で用意したということになるのか。この事実は一見たいしたことの無いように思えるが、実際かなり恐ろしいことだ。
例えばHPを回復する手段としてポーションと回復魔法がある。
しかし、ポーションは飲み続ければ胃がタプタプになるし、使い続ける程効果が弱まってしまう。これは全てのポーションに対して起こる為、HP回復やMP回復、その他バフのポーション等、一度に使用できるポーションの総量は制限されてくるのだ。
その為、HPを回復するには回復魔法が主に使われることになるのだが、それでもMPを消費することになるし、MPがなくなればポーションが必要になる。またそもそも、回復を専門にしているプレイヤーはそう多くなく、回復魔法を使えるプレイヤーも限られてくる。
これを踏まえた上で、彼の微々たる量ではあるがコスト無しで回復出来ることの恐ろしさが分かるだろう。これは非常に恐ろしいことなのだ。
「これだけではありませんよ、先輩。近年瞑想の効果が社会的に証明されたこともスズちゃんは考慮したのでしょうか。彼は他にも集中、未来予知という二つのスキルを獲得しました。
もう、これは強力すぎて私も驚く気力すら失せましたがかなりヤバいものです。集中は体感時間を引き延ばし、未来予知はその名の通り相手の次の攻撃が分かるようになる、というものです」
これはっ……本当に好かれているとかそういう次元じゃないな。SSZSの寵愛を受けているといった方がまだ分かる。実際、SSZSがプレイヤーを差別したり贔屓したりすることはないのだが、それでも異常だ。
これらのスキルは共に瞑想をしたことによるものだろう。瞑想によって集中力と共感能力が上がり、それがスキルとなって現れたのだろう。共感能力とは相手の気持ちがわかるというもので、それの究極系かつ、戦闘よりになったのが未来予知ということなのだろう。
そもそも瞑想は現実世界でも様々な効果があるため、彼は将来大物になるかもしれないな。まあ、続けなければ意味はないか。
これは彼がキングオークに勝てる可能性が変わってくるな。勝率は四割に上昇、といったところだろうか。それにしても一体彼は何者なんだ?
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