第20話 彼の手法と期待


「一騎打ち?」


「はい、最初は上手く彼を説得しようとしていたのですが、彼がしつこく、しまいには彼の方からこの提案を持ちかけたようです。何を彼がここまでそうさせるのかわかりませんが、凄い熱量でした」


 なるほど、そういうことか……そんな方法があったとはな。暗殺ギルドに入るにはそれ相応のレベルが必要で、紹介人に実力と素質を認められたら声をかけられるようになっている。


 だが、そんなルールを知ってか知らずか、直接直談判に行った挙句、俺の実力を測る為に俺と戦えっていうなんて、型破りなんてものじゃない、破天荒過ぎる。


 それに彼女も言った通り、そこまでする動機が分からない。つい先日まで彼は自殺をただ繰り返していただけなのに、海龍戦を機に急に一般プレイヤーらしくなった。まあ、らしくなっただけで一般からは程遠いが。


 ん、いや待てよ、彼がどのようにして受付に取り入って戦う流れになったかは分かった。ただ、戦いはすれども、彼が受付に決して勝つことが出来るとは思えない。


 彼がいろいろあって、初心者とは言えないくらいに強くなっているのは知っている。ただそれでも受付の人に勝てるビジョンが見えない。


「どうやって倒したんだ、って顔をしていますね。勿論私もそう思いました、しかしよくよく調べて見るとこの一騎打ち及び彼のギルド加入には条件があったそうです。それは、三分間の間に彼が一撃でも受付の人に入れられたら、彼の勝ち、という条件です。

 これは誤解の無いように言っておきますが、この条件を提示したのは受付の男性の方です」


 そ、そういうことか……


 受付の彼は彼を見たまんまの初心者だと思ったのだろう。それならばこのハンデは妥当だ。しかし、彼の場合は少し、いやかなり特殊な初心者だ。一般常識も今までの感覚も一切通用しないのだ。


 私の見立てでは受付の人が苦戦しながらも、なんとか受付の人が勝つ、というものだった。そのため、一撃入れることくらいならば彼は余裕だったのでは無いだろうか。


 なるほど、彼はこういう流れで暗殺ギルドに入ったのか。恐ろしいな、暗殺ギルドでは前述の通り冒険者ギルド等では扱えない依頼がおいてあるのだ。そのため成功した際のリターンは非常に大きいが、その分かなりのリスクがある。


 今の彼では、一番難易度が低い依頼でも達成は厳しいのでは無いだろうか。飛び級して入ってしまった分、彼にとってこれからが厳しい戦いになりそうだな。


「先輩! なんと、彼に初任務が言い渡されました、その内容はなんと、キングオークの討伐です!!」


 何故彼はこんなにも話題が尽きないのだろう。話題性があることはいいことだろうが、ありすぎも困ったもんだ。しかも、それが初任務がキングオークだって? 今し方どの任務でも厳しいという話をしていたのに、しょっぱなからこんな大物を引くとはな、ついているんだかいないのだか。


 キングオークとは、暗殺ギルドの依頼の中では中の下くらいの難易度だが、到底初心者が扱えるような依頼では無いし、何も出来ずに一方的にやられるだろう。


 それが普通の初心者ならばな。


 残念ながら、生憎彼はかなり特殊な初心者なのだ。しかも依頼の当日まで少し時間がある。ということは彼にも準備期間があるということだ。彼が一体、どんな準備をするのか想像もつかないが、今までの傾向からして、タダではしなないだろう。


 あまりにも強大過ぎる敵に対して、彼はどのような気持ちでどんな準備をするのか、非常に楽しみである。


 それに、これで彼もやっとプレイヤーらしくなってきた。これからのNSOもしっかり楽しんでもらいたいものだ。


 私の見立てでは三割で勝ち、七割で負ける。と言ったところだろうか、普通に考えれば負けるだろうが、もしかしたらがあるかもしれない。


 さあ、君の全力を見せておくれ。

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